写真:gettyimages
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11月の米中間選挙と大統領弾劾プロセス(AERA 2018年9月24日号より)
11月の米中間選挙と大統領弾劾プロセス(AERA 2018年9月24日号より)

 米中間選挙を前に、「暴露本」の衝撃が再びトランプ政権を襲った。大統領は「フィクション」と一蹴しながらも、本の取材協力者を割り出そうとするなど、まるで“犯人探し”のような動きも見せている。

【図】11月の米中間選挙と大統領弾劾プロセス

「大統領の理解力は小学5年生レベル」(マティス国防長官)
「まぬけな大統領にいかなる説得も無駄」(ケリー首席補佐官)
「重要書類を大統領に見せるな。国を守るためだ」(コーン前国家経済会議議長)

 11月6日の中間選挙を2カ月後に控えた9月11日、全米の書店を始め、ネット書店を通じて世界で発売されたトランプ政権の暴露本の内容の一部だ。くしくも17年前に米国同時多発テロで米国本土が史上最悪の攻撃を受けた日の出版となった。「常に流動的で常軌を逸し、考えが固定せず感情的な大統領の衝動的で危険な命令」(暴露本からの抜粋)から米国を守るため、政権幹部の一部が行ってきた「実務上のクーデター」(同)の数々が詳細に記されている。

「ホワイトハウス内の混乱と内輪もめの報道はほぼ連日あるが、それでも一般国民は内部事情の本当の酷さを知らない」

 プロローグでそう記された暴露本のタイトルは『FEAR(恐怖)』。発売前に増刷6回、発行部数100万部と人気だ。1970年代にニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件の調査報道で知られるワシントン・ポスト紙の記者、ボブ・ウッドワード氏が書いた。可能な限り関係者に取材し、数百時間に及ぶインタビューの多くが録音されており、同書内の発言はその人物の言葉通りになっていると、ウッドワード氏は冒頭で説明している。大統領本人は取材に応じなかったという。

 トランプ政権内部の混乱を描いた暴露本は、今年1月にジャーナリストのマイケル・ウォルフ氏が出した『FIRE AND FURY(炎と怒り)』があるが、今回の『FEAR』は中間選挙2カ月前の出版というタイミングが攻撃的だ。トランプ政権に打撃を与える投票行動に有権者を誘導しかねないからだ。

 暴露は連鎖する。9月5日付のニューヨーク・タイムズ(NYT)紙には、政府高官が匿名で「トランプ氏の政策や最悪の意向を阻止しようと懸命に尽力する大勢の政府高官の一人」として、「大統領は米国の健全なあり方に有害な行動をとり続けている」などと批判する寄稿が掲載された。

 いずれも「フィクション」などと一蹴したトランプ大統領だが、CNNなどによると、『FEAR』への協力者の割り出しを側近に指示。NYTへの寄稿者の調査も進めており、抵抗勢力は徹底的に排除する構えだ。主要閣僚の多くが「筆者は自分ではない」と否定する声明を次々と発表するなど、政権内部の異常ぶりはますます際立つ。(編集部・山本大輔)

AERA 2018年9月24日号より抜粋