憲法改正を旗印に、野党に対抗する形で右傾化を主導してきた安倍首相。加えて「党の統一を回復したことが安倍政権での変化」と中北教授は語る。

「最大の支持団体の全特(全国特定郵便局長会)を敵に回し、郵政民営化に反対する議員を切り捨てるなど、小泉元首相が自民党組織に与えた負債は大きい。第1次安倍政権では造反議員を復党させるなど、その負債を一つずつ清算し、党の結束を取り戻した。経済政策で支持団体を固め、公明党との関係も良好だ。これだけ選挙に強ければ党内から異論も出ない」

 首相が3選をすれば、来年末には首相の通算在任期間で歴代最長の桂太郎(2886日)を抜く可能性がある。そんなレガシーも狙っているのだろうか。

 一方、長期政権だからこそ取り組まなければならないこともある。

 作家で安倍政権の経済ブレーンでもある堺屋太一さん(83)が朝日新聞で近未来小説『平成三十年』の連載を始めたのは97年。人口が減少し、東京一極集中で地方は衰退、国の借金は増え続けるストーリーだった。まさに、現実も小説のような世界が広がっている。単行本化した際のサブタイトルは「何もしなかった日本」。現実は「『何もしなかった日本』と比べても、もっと何もしなかった日本です」と、政治への危機感を堺屋さんはこう語る。

「野党がいないから危機感がなく、論争も生まれない。例えば日本が直面している最大の問題は少子化だ。低欲社会ほど恐ろしいものはない」

 作品には続編『団塊の後』がある。舞台は2026年、47歳と若い首相の徳永好伸が掲げるのが「身の丈の国」。外国と富を競わず、日本自身の幸せを追求する。堺屋さんは言う。

「強い日本を目指した第1の日本は明治維新から1945年の敗戦で終わりました。戦後、第2の日本の正義は『安全と平等と効率』でした。だが、平等と安全が過ぎると、冒険心が生まれない低欲社会になり、世の中から意外性と多様性が消えてしまう。日本の官僚は2年程度でポストが変わる仕組みなので、長期的な視野を持って問題を考えられない。政治家がビジョンを持って『第3の日本』を語っていく必要があります」

 安倍首相は総裁選に向けて地方議員や業界団体幹部との会合を重ねる一方、街頭演説会は5カ所にとどまる。前回12年の総裁選では17カ所だっただけに、政策論争に消極的な姿勢が見て取れる。第3の日本は見えてこない。

(編集部・澤田晃宏)

AERA 2018年9月17日号