「次はもっと大作に挑戦できるだろうという自信になりました。実際、次作はアメリカを舞台に、国粋主義をテーマにしています。といっても、ある国だけではなく、世界中で見られる国粋主義についてです。私たちは今、各地が分断されている興味深い時代に生きているわけですから」

◎「判決、ふたつの希望」
立場の違う2人の男の“些細な口論”が国を揺るがす大騒乱に。個人の尊厳と許しを描いた社会派娯楽作。東京・TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開中。

■もう1本 おすすめDVD「ファーゴ」
「子どもの頃から些細なことが雪だるま式に悪い方向に大きくなっていくことにすごく恐怖を感じていた」のは、ドゥエイリ監督だけではないはず。世の中には、不幸の連鎖をテーマにした映画は少なくない。

 コーエン兄弟による「ファーゴ」(1996年)は、些細な計画が取り返しのつかない連続殺人事件に発展してしまうブラックコメディー。多額の借金を抱えたジェリーは、妻の狂言誘拐で金持ちの義父から身代金をせしめようと一計を案じる。実行役のカールとゲアは予定通り、妻の身柄を拘束するのだが……。

 そもそも見るからに間抜けそうなゴロツキに仕事を頼んだことが悪夢の始まりだったのか。いや、そうではない。小心者が、罪の意識もなく狂言誘拐を企てたこと自体が大間違いなのだ。事件を片付けた女性警察署長と夫の寝室でのラストシーンを見るにつけ、人生は平凡ながら小さな確かな幸せ(村上春樹が言う小確幸ってやつですね)が一番、と自分に言い聞かせている。

 動物行動学者でもあるジャケ監督は、や狼、さまざまな森の動物も描きだす。きつねに夢中になるリラを通じて、自然とはなにか、自然が人間を惹きつけるのはなぜか。そして人間が守るべき姿についても、静かに示してくれる作品だ。

◎「ファーゴ」
発売・販売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
価格1419円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2018年9月10日号