Ziad Doueiri/1963年10月、レバノン・ベイルート生まれ。19歳で米国留学。米国を中心に母国やフランス、メキシコなど各地に滞在。98年、「西ベイルート」で長編初監督。他に「The Attack(原題)」(12年)など(撮影/品田裕美)
Ziad Doueiri/1963年10月、レバノン・ベイルート生まれ。19歳で米国留学。米国を中心に母国やフランス、メキシコなど各地に滞在。98年、「西ベイルート」で長編初監督。他に「The Attack(原題)」(12年)など(撮影/品田裕美)
「判決、ふたつの希望」/立場の違う2人の男の“些細な口論”が国を揺るがす大騒乱に。個人の尊厳と許しを描いた社会派娯楽作。東京・TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開中 (c)2017 TESSALIT PRODUCTIONS - ROUGE INTERNATIONAL - EZEKIEL FILMS - SCOPE PICTURES - DOURI FILMS
「判決、ふたつの希望」/立場の違う2人の男の“些細な口論”が国を揺るがす大騒乱に。個人の尊厳と許しを描いた社会派娯楽作。東京・TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開中 (c)2017 TESSALIT PRODUCTIONS - ROUGE INTERNATIONAL - EZEKIEL FILMS - SCOPE PICTURES - DOURI FILMS
「ファーゴ」/発売・販売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン、価格1419円+税/DVD発売中 (c)2014 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
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 AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。

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■いま観るシネマ
「それを言っちゃあおしまいよ」は「男はつらいよ」の寅さんのセリフだが、レバノン映画「判決、ふたつの希望」もそんな一言が決定打となって、排水管工事を巡る2人の男の口論が法廷へと持ち込まれる。彼らがキリスト教徒とパレスチナ難民だったことから、些細な口論は宗教を背景にした政治問題となり、いつの間にやら2人を差し置いて、事態はレバノン全土を巻き込んだ大騒乱へと発展していく。

 中東映画に宗教、対立が絡めば、ほとんどの日本人には遠い国の話だが、主人公2人の感情は万国共通。「謝罪」と「侮辱」を巡る些細ないざこざはどこにでも転がっている。実際、本作誕生のきっかけもジアド・ドゥエイリ監督自身の体験だった。

「私はある時、配管工の男性と口論になり、映画と同様に『お前らなんかシャロンに抹殺されればよかったんだ』と言ってしまったんです(※1982年にイスラエルがレバノン侵攻した当時の国防相がシャロン。パレスチナ人にとっては最大の侮辱)。すぐに謝りに行き解決しましたが、数日後にこれを映画にしたら面白いんじゃないかというアイデアが浮かびました。それと、私は子どもの頃から些細なことが雪だるま式にどんどん悪い方向に大きくなっていくことにすごく恐怖を感じているので、それを組み合わせたのです」

 裁判が進むにつれ、キリスト教徒トニーのパレスチナ人への尋常でない怒りの背景も明らかに。怒りあり涙あり優しさあり。一筋縄ではいかない脚本は、監督自身が元妻と一緒に「6カ月という記録的な速さで書き上げた」。執筆はいつも英語。それゆえ生々しさを取り込め、「自国以外の人にも通ずるものができあがる」と言う。

 本作はレバノンで初めて米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたほか、各国映画祭で高く評価された。

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