倉敷市職員、地元の街づくり団体や支援団体のスタッフなども加わって班長会議が始まった。この日の会議で、トイレ掃除のボランティア募集、洗濯物干し場の運用などの情報が共有されたあとに話し合われたのは、避難者の名札について。

 本部の意向として、名札の導入が提案された。

「いま、この避難所は誰でも入ってこられる状態です。不審者が入ってきてもそれに気づく方法がない。セキュリティーのために、避難者だとわかる名札を付けたらどうかと思っています。ほかに、名札を付けることでマナーの向上が期待できたり、名前を呼びあえる関係づくりにも役立つのでは?」

 早速、議論が始まった。班長が、次々に発言する。

「名札を付けるのは絶対にイヤという人もいると思う」

「子どもの名前が不審者に知られるリスクもある。いまは登下校時も学校の名札を隠すようにしている」

「避難所の中の人だとわかるようにできれば、名前までは不要では?」

「とはいえ、名前がわかると距離が近くなって生活しやすくなる」

 ある女性の班長から、折衷案も提案された。

「とりあえず大人だけ付けてみるなど、限定的に始めるのがいいと思う」

 班長のほとんど全員が発言し、「大人は名札を付けることを基本にする。子どもと、どうしても名札を付けたくない大人には避難者だとわかるカードを付けてもらう」という案が全員の賛同で決められた。

「うちは40歳くらいの子どもがいるんだけど」などと冗談を飛ばす班長もいて、雰囲気は和やかだ。

 班長のひとり、白神日出男さん(72)は言う。

「一方的に方針が伝えられるだけでは反発も出ると思う。反対意見を言えたり、折衷案が出たりする場になっていて、納得しやすいね」

 班長以外の避難者も、好意的に受け取っている。

「班長を通してシェアされれば協力しようという気になる。生活の細かな部分も改善されてきていると感じています」(60代・女性)

 岡田小学校では、9月3日の学校再開がすでに決まっている。体育館は避難所として存続する見込みだが、各教室は明け渡しの準備が急ピッチで進む。退去できない避難者全員を体育館に収容しきれるのか、そして学校と避難所が共存することなど、課題は山積みだ。

「今後、班長さん自身も避難所を退去するなど状況は刻々と変わります。それでも、班長会議の仕組みは維持していきたい。避難者が減って状況が落ち着けば、資材の調達など本格的な運営まで、住民自治の仕組みをつくれるか模索していきたいです」(倉敷市職員)

(編集部・川口穣)

AERA 2018年8月27日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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