思い起こせば自民党が民主党に総選挙で大敗した際の最大の敗因が年金問題だった。このため、首相官邸と厚労省が二人三脚でiDeCoの法整備を急いだと言われる。

 iDeCoの唯一の弱点は、年金受け取り開始の65歳まで「絶対に引き出せない」こと。何かとお金がかかる子育て世代は、運用中のお金を万が一のことがあっても使えないのが不安材料になる。

「子供は国公立で大学まで行かせるつもりですが、すべて落ちて私立に行くしかなくなったら……いざ学部を決めるとき、お金がかかる学部に入りたいといい始めたら……などと思うと、iDeCoを始められない」という親も多い。

投資総額と節税面でやっぱりiDeCo?

 次に月々の投資可能額を比べてみる。単純比較ではNISAの月々10万円が最大。投資できる金額が最も少ないのはiDeCoで、将来の年金受給額がある程度保証される公務員や、企業型確定給付年金の加入者(大企業が中心)は月1万2000円にとどまる。

 ただ、「投資総額」で計ると世界が違って見えてくる。投資期間がNISAは5年と短いのに対し、iDeCoは40年。非課税になる年間投資額の上限は、NISAが600万円だが、iDeCoで最も少ない公務員などでも576万円と、NISAに匹敵する。

 毎月6万8000円まで拠出できる自営業者の場合、40年間の合計は3264万円まで膨らむ。これだけ大きな金額を年3%や5%で運用し続けられたら、老後不安は急速に消えるだろう。

 一方、NISAは2023年に打ち切られる見通し。財政再建を重視する財務省などの意向だという。国民に広く消費税率アップをお願いする立場から考えれば、投資だけ優遇するのは難しいのか?

 ただ、証券業界では制度の恒久化を求める声が強く、金融庁も証券業界に理解を示している。せっかく軌道に乗り始めた個人の株式投資に水を差すのか、優遇強化で市場活性化を後押しするのか、政府は難しい判断を迫られる。(経済ジャーナリスト・大場宏明、伊藤雅浩)