岳鉄を市のランドマークにしたいと意気込む雨宮社長は言う。

「交通手段として安全に輸送する。それプラス、お客さんに喜んでもらい地元に還元される。そういう流れを作っていきたい」

 今、ローカル鉄道が苦境に立たされている。人口減少や車社会の進行などで乗客が減り、多くの路線が廃線に追い込まれる。

ところが、乗客数は10年度を底に増加に転じているのだ。国土交通省の「鉄道統計年報」によれば、JRや大手私鉄を除く「地域鉄道事業者」、いわゆるローカル鉄道96社(18年4月1日現在)のうち路面電車などを除いた81社の「年間乗客数」は、15年度は前年度比で53%の会社が年間乗客数を増やしている。冒頭で紹介した「岳鉄」の15年度の年間乗客数は80 万6千人で、前年度の74万9千人から8%増やした。

 V字回復のカギの一つが、地域との二人三脚だ。

 地域住民を巻き込んだ好例と言われるのが「北条鉄道」。兵庫県加西市と小野市の八つの駅13.6キロを結ぶ第三セクターだ。15年度の年間乗客数は35万人と、10年度と比べ14%増やしている。

 V字回復の陣頭に立ったのは、佐伯武彦副社長(80)。元川崎重工業の副社長だ。地元出身で川重に在職時、赴任先でいくつもの不振部門を立て直した経験をもつ。11年、北条鉄道取締役に就任すると、手をつけたのが荒れ果てた駅のトイレだった。なぜトイレを?

「トイレが汚い会社でいい会社はないんです」

 当時、北条鉄道の駅トイレは大正時代につくられたくみ取り式。利用したいと思う人はいなかった。トイレがない駅すらあった。が、改修・新設する予算などない。そこで地域から寄付を募ることにした。しかし当初、協力者はいなかった。「あんな鉄道、廃線にしたほうがええねぇ」と突っぱねる人たちに、佐伯副社長は何度も頭を下げて回った。実は、佐伯副社長は無報酬で働いている。川重時代は海外勤務もあり地元に貢献できず、退職後は地元に恩返しをしたいという思いからだった。

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