ホスピタリティー精神にあふれるだけでなく、笑顔を絶やさず自ら楽しむことも忘れていなかったボランティアの姿は印象的だった(撮影/スポーツライター・栗原正夫)
ホスピタリティー精神にあふれるだけでなく、笑顔を絶やさず自ら楽しむことも忘れていなかったボランティアの姿は印象的だった(撮影/スポーツライター・栗原正夫)

「ロシアW杯は、史上最高の大会になったともいえる」

 現地で出会ったW杯を長年取材するベテラン記者も、番狂わせなどサプライズが多かった試合だけではなく運営面を含めた大会全体の印象をそう話した。

 ロシアに対しては北方領土問題などに加え、冷戦時代からの暗く、冷たいといったイメージを抱く人も多いだろう。実際、2年前のユーロ2016(サッカー欧州選手権)では、ロシア人の過激なサポーターがイングランドサポーターを襲撃するといったトラブルを起こしており、今大会も開幕前はテロの脅威に加え、フーリガンの存在などを心配する声は少なくなかった。インターネット上を中心に「おそロシア」と揶揄する言葉が躍り、W杯で観戦に訪れた日本人サポーターも渡航前は少なからず恐怖心があったと告白する人が多数いた。

 だが、実際にロシアの人々が見せたのは、ホスピタリティーにあふれた笑顔だった。国際サッカー連盟(FIFA)によれば大会期間中、世界中から100万人以上のファンがロシアを訪れたというが、運営上のトラブルはほとんど聞かなかった。

 ロシアの一般の人々は、ほとんど英語を話さない。ホテルでもレストランでも一部の施設を除けば、まったく通じないと言ってもいい。たとえば、深夜のホテルで水が飲みたくて「水を下さい」と言ったところで、「水(water)」がわからないといった具合である。しかし、彼らはそんな状況でも懸命にスマートフォンの翻訳アプリなどを使用し、こちらの意図を理解しようとコミュニケーションに努め、多くの場合は解決できた。たとえば、街中で道を聞き、言葉で説明できなければ近くまで一緒に付いてきて案内してくれたり、タクシーアプリでうまくタクシーをつかまえられずにいると自ら呼んだタクシーを代わりに譲ってくれるなんてことは一度や二度ではなかった。

 また、今大会で目についたのは頼りになるボランティアスタッフの存在だ。主に大学生を中心とした若者が多かったが、彼らはスムーズな英語を話し、スタジアムだけでなく駅や空港、繁華街などで積極的なサービスをしてくれたのが印象的だった。

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