昔話に出てくる女の子たちに起こった出来事を、現代の視点で見直してみたら? 『日本のヤバい女の子』は、物語から女の子を解放する、新世代による読むと元気になるエッセー集だ。今回は著者のはらだ有彩さんに、同著に込めた思いを聞く。
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かぐや姫、虫愛づる姫君、鉢かづき姫──日本の昔話に出てくる、どこかエキセントリックな20人の女の子たち。
はらだ有彩さんは彼女たちを一人ずつ呼び出し、ガールズトークさながら、女の子の言い分を丁寧に聞いていく。
「『浦島太郎』の乙姫は、何の説明もなく玉手箱を贈るし、『竹取物語』のかぐや姫は求婚者たちにむちゃな要求をします。ストーリー上の彼女たちは、血も涙もない悪女(ファムファタル)です」
しかし、本当にそれだけなのだろうか。
「長い時間をかけて受け継がれてきた昔話は、登場人物にいつのまにか“果たすべき役割”を背負わせている。その役割を取り除くと、私たちと変わらない血の通った女の子がいるんじゃないでしょうか」
はらださんは中学、高校と女子校に通い、大学は芸大に進んだ。女性であることは大きな問題はなかった。
「ところが社会人になってみたら、対話で解決できない問題があることに気がつきました。例えば出張先で、同行した男性に部屋に誘われたり、取引先や会社の人たちは悪人ではないけれど、ちょっとした時に『女だから』と言ってくる。変だな?と思うことが多くて。21世紀の今でさえこんなに大変なんだから、昔はどうだったんだろう?と思ったのが、昔話を調べるきっかけでした」
実家は1856年創業のおせんべい屋さん。家には昔の資料や焼き型があり、古い時代への関心が自然に育まれた。一方で、母親は女性支援の活動をしているフェミニストだった。
「いろいろな問題を男対女の対立として考えたくないんです。女性が生きづらい社会は男性にとっても息苦しいはず。争っている余裕はなくて、問題を一緒に解決していかないと、と思います」
本の最後に登場するのは、「有明の女御」の物語。男として育てられ、女に戻った主人公の不思議なお話だ。主人公とは対照的な、男性に翻弄される少女が登場し、二人は最後まである種の友情で結ばれている。
「女友達をとても好きだな、と思う気持ちを表す言葉はありませんが、矮小化されるものではないと思っています。今はもう会えなくなった友達も、みんなハッピーでいてほしい。そんな気持ちを最後の章にこめました」
本書には、はらださんが描く、ヤバい女の子のイラストが、ちりばめられている。浮遊感のあるイラストを眺めながら、連絡をとっていない女友達の顔が浮かんでくるような本なのだ。(ライター・矢内裕子)
※AERA 2018年7月23日号