こう語るのは、旧大蔵官僚で、政界転身後は細川護熙内閣と羽田孜内閣で蔵相、鳩山由紀夫内閣で財務相を務めた藤井裕久氏。12年に政界を引退するまで長らく政権の中枢におり、政治家の言葉の重みを熟知している人物だ。自身も、政治家として「何をどこまで言うべきか」で悩んだことがある。細川内閣の蔵相時代には、アメリカ側と激しい通貨外交が展開されていた。藤井氏は消費税増税論者だが、アメリカの政府高官は「円高・ドル安」「国内減税」を日本側に強く求めていた。ここで蔵相が増税に言及すれば、外交が立ち行かなくなる。だが、国内的に増税議論は待ったなしだった。そこで、1994年に大蔵省の斎藤次郎事務次官と新生党の小沢一郎代表幹事(いずれも当時)が矢面に立ち、「消費税3%」を廃止、「国民福祉税7%」を導入する構想を発表した。

「国益と照らせば、政治家には話せないこともある。ただ、自分の支援者や友達を優遇するために、首相が国民にウソをつくことに『大義』はまったくない。安倍政権では国会でのウソがまかり通るようになり、政治、行政の信頼を大きく毀損した。これは、外交で国益を損なうことと同等の政治的損失です」

 怖いのは、この「ウソがまかり通る政治」に国民が慣れてしまうことだ。乱暴な答弁が繰り返されると野党は何度も追及せざるを得ない。それを見ている国民は「同じことの繰り返し」「まだやっている」と状況に飽きてくる。政権もその意識に乗じて、問題を矮小(わいしょう)化させ、最終的にはうやむやにしようとする。

「すべての国民が安倍政権のウソに鈍感になっているとは思わない。講演などで地方に行って話を聞くと、良識のある国民は多くいます。自民党自体もまだ腐りきってはいない。自民党内から自浄作用が働き、国民は選挙でウソをついた政治家を落とすことができるか。ここが『ウソだらけの政治』から抜け出す第一歩でしょう」(藤井氏)

 私たちは、為政者がどんな言葉で、何をごまかそうとしているのか、今まで以上に注視していかねばならない。(編集部・作田裕史)

AERA 2018年6月11日号より抜粋