「手癖の悪いショートステイの利用者は、特養老人ホームへの入居を希望されていたのですが、セクハラを理由にお断りさせてもらったところ、娘さんに『父はそんな人じゃない』と泣かれました。高齢者の性に関する問題は、その家族まで傷つける可能性があるセンシティブな問題なのです」(社会福祉法人仁生社の特別養護老人ホーム「水元園」施設長・桜川勝憲氏)

 とはいえ、家族に報告しなければならないケースもある。“事故”に発展するケースだ。

「尿道に尿を採るためのカテーテルを挿入されていた70代の男性は、あるときそのまま自慰行為を始めてしまって、陰部が血だらけに……。医療的処置が不可欠だったので、ご家族に事実を報告させてもらったのですが、奥様は笑っていました」(同)

 性欲の衰えない高齢者もいる。それを前提に、「なかには成人映画の上映会を男性利用者向けに開催している老人ホームもある」(前出・女性施設長)というが、結城教授は疑問を呈する。

「税金が投入されている公的施設で、それも税金や保険料の一部から給料が支給されている介護福祉士が、性欲の処理という非常にプライベートな問題にまで対応する必要があるのか。高齢者は増加の一途をたどり、財政が逼迫する状況を考えれば、性欲の処理のためにわずかでも税金が利用されるのは、多くの国民は受け入れがたいでしょう」

 最大の問題は高齢者の性に関する対応策が、タブー視されてきた点にある。セクハラされる介護福祉士がいても、「うまくいなしなさい」という指導しかしていない施設が大半だ。

 介護福祉士を目指す学生のカリキュラムには、当然のように「性の問題」に関する項目はない。マニュアルもなければ、明確な解答もない。ここに紹介したのは、あくまで一部の暴走した高齢者による性のトラブルにすぎないが、さらなる高齢化社会の進展を前に、大きな課題が立ちはだかる。(ジャーナリスト・田茂井治)

AERA 2018年5月28日号より抜粋