「地上波の信頼を揺るがせる事態を招いたために批判を浴び、BPOの審査対象になったのです。自由化の名の下にネット基準の情報が放送を席巻するのは、国民にとってプラスなのか、よく考える必要があります」

 政府内の文書「放送事業の大胆な見直しに向けた改革方針」には、「放送にのみ課されている規制(放送法第4条等)の撤廃」などと明記されていた。「政治的公平」や「多角的論点の明示」を放送事業者に求める放送法4条の撤廃は、4月の規制改革推進会議では明示されなかったものの、今後も焦点として浮上する可能性はある。

 民放局は4条を盾に、特定の思想信条に偏ったCMを排除することもあった。一方で、政府・自民党は「政治的公平」規定違反の疑いでテレビ局幹部を呼びつけるなど、圧力を強める規定として利用してきた。

 4条が撤廃されればどんな影響が出るのか。

 参考になるのが米国の先例だ。米国では、放送法4条の「政治的公平」に相当する「フェアネスドクトリン」が1987年に廃止された。多チャンネル化に移行し、「個々の番組に偏りがあっても視聴者は多様な情報に接するからバランスが取れる」(砂川教授)との判断もあった。しかし現実には、ポピュリズムをあおる番組が視聴率を稼ぐようになり、その結果、台頭したのが「FOXニュース」だ。同局は01年の米同時多発テロ事件後、愛国心一色の報道を打ち出し、イラク戦争など「テロとの戦争」の旗振り役となった。現在は、トランプ大統領支持を鮮明にする。砂川教授は言う。

「安倍首相には、政権にとって都合のよいメディアが謳歌できる環境を日本でも整えたい、との考えがあるのでは」

 放送との垣根が取り払われれば、日本でも党派色の強いネット局が世論への影響力を増す可能性がある。

 放送法は1条3項で「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」とうたう。番組づくりの現場でこの条文を用いて議論する場が日常的にあった、と明かすのは元NHKプロデューサーで武蔵大学の永田浩三教授だ。

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