「放送局という組織を守るのか、真実やジャーナリズムを大事にするのかという瀬戸際に立たされたとき、われわれの職責は『健全な民主主義の発達に資する』ことではないですか、と上司にも直言できるんです」

 永田教授は、放送法を「放送の現場で日々の仕事を守ってくれるリアルなお守り札」と表現し、「これを失えば、心ある記者やディレクターを苦しめることになる」と懸念を示す。

 どの政権も嘘をつくし、都合の悪い物事は隠す。だから報道は常に「中間報告」でしかない──。番組づくりの経験から永田教授は放送の限界も認識した上で通信との融合に異を唱える。

「ネットは事実に基づかない、悪意がベースにある情報も増殖させる空間です。自由競争に委ねればよいものが残り、ひどいものは駆逐されていくという、『人間は善』であることを前提にした議論って、やっぱり無理があります。ファンタジーで美しいけど、違うんじゃないかな」

 民主主義は自由に委ねることでも、規制でがんじがらめにすることでもなく、さまざまな模索を重ね、不断に律していくものなのかもしれない。(編集部・渡辺豪)

AERA 2018年4月30日-5月7日合併号より抜粋

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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