母:そういえば昔、どうしても自分と合わないお客さまを後輩に引き合わせました。「絶対に頼りになる方だから、いろいろと指導していただきなさいと紹介されました」って言わせてね。もちろん後輩は契約をいただきましたよ。

妹:究極のセールスかも。

姉:すべてを成約させることは、できません。同じ考えを持っている人と、共に歩んでいけばいいんです。

母:個人保険のセールスで、私が何度も言ってきたのが「加入する義務と加入しない罪」。『生命保険経済学』を著した米国のヒューブナー博士の言葉です。「持ち家もなく、子どもが大きくなるまで面倒を見られるだけの財産もないのに加入しない。それは義務を果たしていない、罪を犯しているんですよ」ってね。保険は「まさか」を前提にした商品だから、気が進まない人は大勢います。でも自分にとって最も大切なものは何かを考えるきっかけになりますし、家族に役立つということが想像できたら、絶対に入ると思うんです。「責任ある生き方が必要ですよ」とか「決断できない人はダメですよ」とか、ビシビシ言ってきたのも、本当にその人のためを思っているからこそです。

妹:母は迫力だけでなく、信頼もありますから。かけ捨て型の保険を希望した人に「終身保険が適していると思います。それが気に入らなければ、他社へどうぞ」と言ったことも。帰りかけたところを呼び戻されて、母の言う通りに決まったんです。「この人にはうそがない。自分の身になって考えてくれている」と思ってもらう。その積み重ねが大切です。

姉:たとえぶつかることがあっても、お客さまにとってプラスになることをハッキリ言う。本音で話す姿勢は、母から学びました。相手を怒らせてしまったら、フォローすればいいんです。日本人はいい人が多いから、例えば上司の言うことが意に染まなくても、我慢して受け入れてしまう。「ここぞ」というところでは、対立を避けるべきではないんですよ。(構成/ライター・安瀬リカ)

AERA 2018年4月9日号より抜粋