「僕にとっては、ジャンプも含めてのトータルパッケージ。4回転ループも演技の一部なんです」

 羽生の熱意に説得されたオーサーは、4回転ループを入れた「最強プログラム」が平昌五輪までの2年越しのゴールだと考えた。

 羽生は16-17年のシーズン初戦で4回転ループに成功。NHK杯では演技に気持ちを集中させて総合300点を超えた。すべての歯車が合ったのは、17年世界選手権のFS(フリー・スケーティング)。3種類4本の4回転を決め、一糸乱れぬ演技でFSの世界記録となる223.20点。SP(ショート・プログラム)5位から逆転で世界王者となった。

 そして平昌五輪を控えた今シーズン。羽生は4回転ループの次のステップとして、4回転ルッツの導入を望んだ。オーサーは、

「オリンピックシーズンに新たなジャンプを入れるのは、演技全体が崩れるリスクのほうが大きい。ユヅルは、ルッツが無くても絶対的な王者だ」

 と説明したが、才能がある限り自分の限界に挑戦するのが羽生結弦というスケーターだ。グランプリシリーズ・ロシア杯では4回転ルッツを成功させ、五輪に向けて4種類目の4回転を手に入れた。

 ところが続くNHK杯。公式練習で4回転ルッツの練習中に転倒し、右足首を負傷。戦線離脱を余儀なくされた。このケガが予想以上に長引いた。本格的な練習は1月中旬から。平昌五輪は羽生にとって、4カ月ぶりの実戦となった。二人に焦りはなかったのか。

 羽生より一足先に平昌入りしたオーサーは、2月8日、メディアの取材にこう話した。

「ケガはもう全く心配ない。1月から練習を始め、日増しに調子を上げている。4回転トーループやサルコウの質は今までよりよくなった。個人戦までには100%の状態に仕上がるよ」

 そして、続けた。

「結弦にとって一番大事なのは、このオリンピックで連覇をすること。それも、ソチのように悔しさが残る演技ではなく、完璧な王者らしい演技で伝説を残すことです。この6年で一番の笑顔を、彼は見せてくれるでしょう」

 羽生は16日のSPで1位、17日のFSでは2位。まさに「完璧な王者らしい演技」でオーサーの「予言」を現実のものにした。(ライター・野口美恵)

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