会見で、苦渋の表情を浮かべる山中所長(左端)。研究費は寄付からも支出されており、当面、自分の給与を全面的に寄付する意向だ (c)朝日新聞社
会見で、苦渋の表情を浮かべる山中所長(左端)。研究費は寄付からも支出されており、当面、自分の給与を全面的に寄付する意向だ (c)朝日新聞社

 今度はノーベル賞受賞の山中伸弥所長のもとで、研究不正が発覚した。厳しい防止策を講じていただけに衝撃は走ったが、大きな傷にはならないようだ。

 京都大学iPS細胞研究所(山中伸弥所長)で、36歳の助教が研究論文の決め手となるはずのデータを捏造する不正が発覚した。テーマは、脳を守るために毒素や病原体などの有害物質を通さないバリアー「血液脳関門」という仕組みを作ること。iPS細胞から分化誘導した細胞4種類を実験室で混合培養して作る、ということだった。

 助教は2010年に京大で博士号取得後、米国立衛生研究所傘下の国立老化研究所に博士研究員として留学。14年からiPS細胞研の任期付きの特定拠点助教となった。16年度から若手向けの科学研究費をおよそ年200万円受け、同年7月に「ヒトiPS細胞から血液脳関門のモデル作成」と題する論文を米専門誌ステム・セル・リポーツに投稿、17年2月に掲載された。助教は筆頭著者で責任者。この研究で、16年の日本循環器学会総会で若手研究者の最優秀賞を受賞し、17年から日本医療研究開発機構の研究費なども得た。

 掲載5カ月後の7月、同研究所の相談室に「あの論文の信憑性に疑義がある」と情報が寄せられた。9月に調査委員会が組織され、助教個人や研究所に保管されていたパソコン、メモリー、ハードディスク、知財管理のために提出されていたデータ、実験ノートなどを調査。

 測定値を整理した1次データ、それを計算・加工して論文のグラフを描くのに使った2次データを把握。それらの正当性やグラフが再現できるかどうかを詳しく調べた。すると、1次データと2次データの値にずれがあるもの、1次データが存在しないものがあった。1次データを再解析した結果でグラフを描くと、論文とは異なった。具体的には論文の六つの主要なグラフすべてと、補足資料六つのグラフのうちの五つに、捏造と改竄の痕跡が見られた。値の操作は、論文の主張に有利な方向でなされ、明らかに意図的だった。

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