原点を基盤として新たな挑戦で成長を図る。第一国立銀行は発足翌年、危機に見舞われます。

 それは、出資者であり最大の貸出先だった両替商、小野組が破産したこと。栄一はあきらめず、小野組の番頭のひとり、古河市兵衛に頼み込んで私財を提供してもらい、倒産を免れた。一方の市兵衛は、いわば無一文。

 それでも市兵衛が投機的な鉱山開発に乗りだすと決めた際に、栄一は無担保で巨額の融資に踏み切ります。市兵衛は大成功を収め、古河財閥の創始者となりました。これが栄一の挑戦です。

 当時もいまも、世の中は常に変わっています。それに対して、銀行は安定主義ですね。ずっと同じ価値観で仕事を続けています。もちろん人間は、ボタンを押せば動きが変わるものではありません。よくあるパターンは、経営トップが実行しようとしても現場が変わらない、あるいは現場が動こうとしても経営トップが聞く耳を持たないこと。

 大事なのは中間層、とくに女性が新しい地の開拓に挑むのを止めないこと。そのうえで外部の知恵を取り入れることによって、みずから変わろうとする力が生み出されます。栄一も言います。<いままでの仕事を守って間違いなくするよりも、さらに大きな計画をして発展させ、世界と競争するのがよい>。栄一の言葉を原点として、銀行の存在意義を示してほしい。(構成/編集部・江畠俊彦)

AERA 2018年1月22日号