かつては電力会社で高圧電線を取り扱う作業員など危険と隣り合わせの職場の関係者が熱心に参拝していた。しかし今は、高速道路の管理システムを担う部門の関係者や、携帯電話の開発業者などが目立つ。

 ある携帯電話メーカーの社長は、1週間後に発表する試作品を持参し、ご祈祷(きとう)を依頼した。新製品の発表サイクルが短くなる中、急いで開発した新製品の発売後にバグ(コンピューターのプログラムミス)が出れば社の命運にかかわる。だから、神頼みせずにはいられない、とこの社長は打ち明けたという。

「最近多いのはこちらの方々です」

 寺務所でそう話す藤本住職の背後には、NTTの事業所のお札があちこちに貼られていた。

 法輪寺には人気グッズがある。マイクロSDカードのお守り(1200円)だ。虚空蔵菩薩の梵字(ぼんじ)が印刷されたマイクロSD本体には、菩薩の画像データが内蔵され、待ち受け画面に表示することもできる。容量は8GBだ。

「従来のお守りのスタイルはしっかり踏襲しています」(藤本住職)

 IT関係者からは、お札やお守りをサーバーなどコンピューター機器に直接貼りつけたい、という強い要望があった。それを受けて頒布を始めたのが、シールのお守りだ。菩薩の梵字や「情報御守護」を印字し、7枚1セット(400円)で頒布。全てご祈祷済みだ。

 神棚のインターネット販売を手掛ける「クボデラ」(東京都中野区)。約10年前にネット販売に乗り出した背景について、同社の窪寺伸浩社長は「これまでの流通経路では神棚が売れなくなった現実があります」と打ち明ける。

 かつては住宅を新築すれば、施工業者が一家の繁栄を願って神棚を家主に贈る慣例があり、同社も大手工務店などとの取引が主だった。今は事務所や工場に設置する「企業向け」の神棚が売り上げの約半分を占める。窪寺社長は言う。

「バブル期とは異なり、長い景気低迷期を地道な努力で乗り越えてきた経営者が多いためか、神棚に対する真剣度は増しているように思います。ITやベンチャー系の若手経営者も神棚への関心は高いですよ」

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