永濱利廣(ながはま・としひろ)/1971年、群馬県生まれ。東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト。著書に『エコノミストが教える経済指標の本当の使い方』など(撮影/写真部・小原雄輝)
永濱利廣(ながはま・としひろ)/1971年、群馬県生まれ。東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト。著書に『エコノミストが教える経済指標の本当の使い方』など(撮影/写真部・小原雄輝)

 第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミストの永濱利廣さんが、『エコノミストの父が、子どもたちにこれだけは教えておきたい大切なお金の話』を上梓した。マクロ経済学の専門家である同氏が、子どもたちのために、使う・稼ぐ・貯める・借りる・増やすという基礎知識、生きてゆくための「お金」のノウハウを指南する。

〈毎月もらうお小遣い、アルバイトで稼いだ給料、銀行に預けられている貯金や、地方自治体や国家の予算──世の中にはいろいろなお金があるよね。ここで君たちに質問だ。お金は何のためにあるんだろう。ほしいモノを買うため?──それも正解だ。だけど、それだけじゃないんだよ。お金と上手に付き合うために、お金の“正体”を知るのはとても大事だ〉(第2章から)

 経済について、中学・高校生はどの程度教わっているのだろうか。モノの値段はどうやって決まるのか、クレジットカードと借金について、税金・年金・保険は何のためにあるのか、円高と円安の違い、景気が良い・悪いとはどういう意味なのか等々。本書はマクロ経済の専門家が息子や娘のために語り下ろした「お金との付き合い方」読本だ。

「上は高校2年、下が中学2年です。二人の子どもに語りかけるつもりで書いています。世の中で生きてゆく上でもっとも必要な経済やお金の話がきちんと教えられていないことに危機感を持ったのがきっかけで、大学生と話していても感じるのは、教えられていることと教えられていないことの知識の差が激しいこと。身近な経済については特に教えられていないんです」

 読者層はむしろ大学生か、いや親の世代だってたとえば銀行と信用金庫の違い、投資と投機の違い、カードローンやキャッシングにおける「分割払い」と「リボルビング払い」の違いなど、どれだけ的確に答えられるだろうか。無知ではすまされない。タイトルを「経済学」ではなく「お金の話」としたところも納得だ。

「クレジットカードなどについては経済学の講義では教えてくれません。バイト代から引かれる税金がどう使われるのか、奨学金の返済もローンの知識と関係してくる。借金とか投機というと何か悪いイメージの固定観念で捉えられがちですが、大切なことは正しい情報をいかに分かりやすく伝えられるかなんですね」

〈社会に出るとは、自分でお金を稼いで自立した生活を送り、独立したひとりの大人として、社会のなかで責任を果たすということだ。その社会には守るべきルールがあるように、社会における「お金」にも、お金のルールがある〉(第4章から)

 本書は「お金」についての基礎知識の伝授にとどまらない、人が自立して生活を営み社会関係をつくってゆく「生活学」を説いている。親子の対話にも好適の一冊といえよう。(ライター・田沢竜次)

AERA 2017年11月27日号