やってみた。視線追跡機能がついたHMDに、鼻から下の表情を読み取るカメラを付けてかぶる。さらにマイク付きのヘッドホンを着けた。目を開ければ、そこは広いリビングルーム。手に持ったコントローラーで操作をして、室内を自在に歩き回ることができる。鏡に映った自分を見ると、なんとアライグマ。思わず笑ってしまうと、鏡の中のアライグマも目を細めて口を開いて笑った。まるで自分がアライグマになって笑っているかのようだ。違和感がない。

 ふと見ると、向こうから1匹のアライグマが近づいてくる。実際に誰かが近くに来たかのような存在を感じた。「こんにちは」とヘッドホンから聞こえてきたのは、FACEプロジェクトマネージャーの澤木一晃さんの声だ。

「自撮りをしたり、バーチャル旅行を楽しむのもおすすめです。京都に行ってみましょうか」

 とアライグマの澤木さんが言うと、360度見渡す限り、周囲は紅葉の森の中に瞬間移動。目が合うと、アライグマの澤木さんがにやっと笑うのがわかる。

「人のコミュニケーションの特徴はアイコンタクト。VR空間でも、アイコンタクトがあることで、自然なコミュニケーションになるんです」

 と澤木さん。アイコンタクトや微妙な表情まで実現するVR。それなら対面が一番では?

「いえ、VRを使うことで、現実を超えるコミュニケーションができるようになるんです」

 と同社代表取締役社長の中島健登さんは胸を張る。現実と同じ感覚で対面でのやりとりをしながら、VR空間内では、映画「マイノリティ・リポート」のように、自在に複数の画面や情報を出せるからだ。

 中島さんは確信している。

「数年後には、VRコミュニケーションの時代が来るでしょう」

(編集部・長倉克枝)

AERA 2017年10月30日号