「『お父さんのいない家族ってどんなものだろう』と想像して設定しました。お母さんが工事現場で働くのは、通学途中の工事現場で働く女の人を実際に見たから。主人公の花は、こういう子になれたらいいな、という私の理想です」

家の隣が図書館で赤ちゃんの頃から遊び場だった。近所に友達もいなかったため、今に至るまでほぼ毎日通う。1歳半で絵本を手に取り、字が読めない頃は、その絵にあわせた物語をアドリブで語った。文字は図書館の「読み聞かせ」で自然に覚えた。借りれば大体3日で1冊を読み終える。

 好きな小説は流行りものより昭和の小説や文豪作品。例えば、安岡章太郎の『サアカスの馬』。遠藤周作のユーモアが詰まった随筆は憧れだ。吉村昭の初期の短編集は「文章が繊細で美しい」。レイモンド・カーヴァー、ジュール・ルナール……。志賀直哉を読んだのは小学校高学年。短編好きな彼女に、仲良しの司書さんが薦めたのは『小僧の神様』ではなく、『剃刀』だった。

 小説を書き始めると止まらない。眠気も感じず明け方まで集中して書き続けることもある。その熱は、今回、あさのあつこ氏や石田衣良氏も舌を巻く文芸作品へと結実した。

 そんなるりかさんの将来の夢は「小説家か漫画家」。欲しい賞を尋ねると、はにかみながら「芥川賞」と返ってきた。少女の可能性は果てがない。(ライター・坂口さゆり)

AERA 2017年10月16日号より抜粋