保安院の指示で、JNESが東北電力女川原発の津波に対する安全性を確かめた報告書。福島・宮城県沖の大津波を4種類想定していた(撮影/写真部・片山菜緒子)
保安院の指示で、JNESが東北電力女川原発の津波に対する安全性を確かめた報告書。福島・宮城県沖の大津波を4種類想定していた(撮影/写真部・片山菜緒子)
保安院が想定していた津波(AERA 2017年10月16日号より)
保安院が想定していた津波(AERA 2017年10月16日号より)

 東京電力福島第1原子力発電所の事故から6年が経った今、新たな事実が浮かび上がってきている。ジャーナリスト・添田孝史氏に寄稿していただいた。

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 東京電力福島第一原発事故をめぐる裁判が各地で続いている。「津波は予見可能で事故は避けられた」と訴える被害者に対し、東電や国は「大津波の予測はまだ確実ではなかった」と反論。だが実際は違う。国や東電の主張を覆す報告書が政府機関から出てきたのだ。

 報告書は「『発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針』の改訂に伴う東北電力株式会社女川原子力発電所第1号機、第2号機及び第3号機の耐震安全性評価に係るクロスチェック解析の報告書─地震随伴事象(津波)に対する安全性評価に係る解析─」。旧原子力安全・保安院が2010年4月30日に指示し、旧原子力安全基盤機構(JNES)が同年11月30日にまとめたもの。今年7月13日付で原子力規制委員会が開示した。

 出てきた事実は何か。原発の建築基準法に相当する耐震設計審査指針が06年に改訂された。既存の原発も含め、最新の科学的知見に照らして耐震安全性の再チェック(バックチェック)をすることになったのだ。国や東電の主張が揺れているのは、ここだ。

 安全性チェックは、A.揺れに関するバックチェック中間報告書を電力会社が提出、B.内容の妥当性を国が検討、C.津波に関するバックチェック最終報告書を電力会社が提出、D.内容の妥当性を国が検討──という手順でやる。つまり、揺れ、津波という大きく二つの内容を順にチェックするわけだが、国は東電事故当時、福島第一原発や、隣の女川原発(宮城県)に関して、揺れだけチェックした、と説明していた。

 ところが、この報告書によれば、JNESは女川原発について津波までチェックを済ませている。それも福島沖の大津波を予測して計算。津波に対する安全性チェックでは、従来からある土木学会の手法だけでなく、「津波堆積物」の最新の研究成果も活用している。

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