そんなAさんにとって唯一、本音を吐き出せる場がツイッターだ。本名を公開しているものや、匿名で好きなアイドルやユーチューバーを追いかける趣味専用のものなど、所有するアカウントは計七つ。例えば、疲れてメイクもよれている学校の帰り道に、インスタ用の写真を撮りたいと急に言い出した友人に「空気を読んで」従った日など、相手が特定できないよう気を配りながら、絶妙ににおわせるつぶやきをしてストレスを発散している。

 2007年の流行語「KY(空気が読めない)」は、もともと友人同士の和を重んじる女子高生たちの間でよく使われていた。あれから10年。女子高生のマーケティングを行っているブームプランニングの清水絵梨さんは、変化をこう分析する。

「SNSが発達したことで、現実でも他人に見られることを前提としたコミュニケーションスキルが必須になりました。見られてもやましくないことが前提なので、彼氏のスマホの指紋認証に自分の指紋を追加登録することも“何げなく”できちゃう子が多いんですよ」

 他人に深く踏み込まないのがルール。だから批判をするなんてもってのほかだ。気に食わないことがあればフォローを外したりブロック・ミュートしたりして心地良い人間関係をオーガナイズできるSNSに慣れているため、わざわざその壁を破って反対意見を述べるのは失礼にあたるという感覚なのだという。

 6月、東京都議会選挙に向けて元SPEEDの今井絵理子参議院議員が投稿したツイートが話題になった。

「『批判なき選挙、批判なき政治』を目指して、子どもたちに堂々と胸を張って見せられるような選挙応援をします」

 民主主義を根本から否定するようなこの発言にツイッター上では多くの批判が寄せられる皮肉な展開になったが、「若者たちは『ハッピーにやるよ』というポジティブな意味で受け取ると思います」と清水さんは言う。

●もはやあきらめの境地

 埼玉県に住む自営業のCさん(47)は、長女(23)が小学生だった約15年前と、次男が小学4年生の現在とで、PTAに流れる空気が明らかに変わったと感じている。例えば集会のときの座り方。長女のときは会長が上座で、他のメンバーは空気を読むように、よく活動する人から前方の席が埋まっていった。たまには座席を変えてみたらどうかと提案したら、PTA会長の顔がみるみる変わり、教室の空気が一瞬で凍りついたことをよく覚えている。

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