さて、デジタルシャーマン藤井さんの49日目。「チーン」というお鈴(りん)の音が「最後の日」であることを告げると、こう話し始めた。

「もう49日がたって、僕そろそろ逝かないといけないんですが、僕もこれくらい一緒にいられたら死んだ自分に納得できるので、みなさんも元気で、楽しくやってください。向こうで待っていますんで」

 話し終えると、まるで電源が切れたかのようにペッパーの頭がガクッとうなだれた。もう会えなくなっちゃうの?というさみしさが込み上げる一方で、ちょっと楽しげな話し方に、思わず笑いがこぼれた。

 市原さんは言う。

「亡くなった人が一時的にその場に戻ってきたかのように感じてもらえるように作りました。会話の中から日常のその人を再現しようという試みもしています」

●のぞき込むと遺影に

 市原さんがこのプロジェクトを始めたのは2年前。大好きだった祖母が亡くなったことがきっかけだった。

 葬儀や四十九日といった弔いの儀式を経験し、それと共に自分自身の心が落ち着いていくことを実感。弔いの意味を再認識したという。

 ちょうどその頃、仕事でペッパーのアプリケーション開発に携わり、ヒト型ロボットへの感情移入のしやすさに気がついた。そこで思いついたのがデジタルシャーマン。

「宗教はもともと、人々が自分自身の中に抱く感情への対応を担ってきた。宗教的儀式には合理性がありますが、それが現代では、どんどん簡略化されつつあります。テクノロジーと組み合わせることで、簡素でも人の感情に寄り添った弔いができるのではないかと考えたのです」(市原さん)

 亡くなった人がロボットになって、49日間を遺族と共に過ごしてくれる。そんな弔いをやってみよう、と。

 ロボットに故人を「憑依」させるというところまではいかなくても、生前の写真や映像といったデジタルデータを使って故人を弔う「デジタル供養」には、すでにさまざまな形がある。

 東洋大学助教の瓜生(うりう)大輔さん(33)は現在、「デジタル供養」のためのツールを開発中。

 鏡をのぞき込むと遺影が浮かび上がってくるハーフミラー付きのディスプレー「円鏡」とデジタルフォトフレーム、キャンドルホルダーからなるデジタル供養セット「Fenestra(フェネストラ)」がそれだ。

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