アカデミー賞外国語映画賞受賞「セールスマン」主演俳優が来日。アカデミー賞授賞式のボイコットで注目されたイラン人主演俳優が、思いの丈を語った。
今年1月、アスガー・ファルハディ監督の「セールスマン」が第89回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた2日後。主演のタラネ・アリドゥスティ(33)はトランプ米大統領がイスラム圏7カ国からの入国制限を発令するとの報を受け、いち早くツイッターで抗議の声を上げ、授賞式ボイコットを表明した。
●抗議のうねりを作った
「私たちイランの一般市民はみな、トランプ大統領が誕生したら大変なことが起こるのではと心配していました。そして恐れていたことが起こってしまった。世界の人々が声を上げているなかで、私も発言しないといけないと思ったんです」
ファルハディ監督もメディアを通じてボイコットを発表。全世界で話題となり、ハリウッドでは授賞式直前のパーティーが中止され、ジョディ・フォスターらが参加する抗議集会になるなど、大きな反響を呼んだ。作品は見事に外国語映画賞を受賞。せっかくの晴れ舞台ではあったが「大丈夫。また次があるわ」と笑う。
本作はイラン国内にも一石を投じる内容だ。タラネ演じるラナは夫の留守中、自宅のバスルームで暴漢に襲われてしまう。警察に届けることをためらう彼女と犯人を許せない夫の間はギクシャクし、事件を知る隣人たちが彼女を見る目も変わってしまう。
「イランだけでなく世界中の多くの女性がラナのように事件を公にするのを拒むのではないでしょうか。特に日本やイランのように伝統的な社会では、社会や隣人、家族の視線に耐えなければいけない。被害者の精神的なダメージはより大きくなる。私も演じながらラナの気持ちが痛いほどわかりました」
主人公のためらいは宗教的な理由ではなく、慣習や環境によるものだ、と話す。
「性的な問題はどこの世界でも起きることです。ただイラン社会では男女が明確に線引きされています。公の場で抑制されているぶん、目につかない部分で痴漢や暴行などが起きやすいということはあるかもしれない」