その後ホールに数百人の社員を集めて開かれた「タウンミーティング」でも、ゴーン会長が一貫して強調したのが、「成長」だった。

「再び成長軌道に乗せる。三菱自はまだまだ、もっともっと成長できるんです」

 と繰り返し訴えた。

「成長」。ここ10年以上、三菱自で見られなかった単語かもしれない。同社では2000年以降、リコール隠しなどの問題が相次いで発生した。00年代、同社の世界販売台数は漸減し、09年3月期以降は100万台前後にとどまっていた。

 そこに昨年4月、自動車の燃費試験での不正問題が発覚した。それも、発端は、11年に軽自動車の合弁会社をつくった日産からの指摘だった。問題発覚を受け、昨年の世界販売台数は1割以上落ち込んだ。売上高は大きく減少した。

 昨年10月、日産は三菱自に34%出資し三菱自は実質ルノー・日産の傘下に入り、3社によるアライアンス(提携)に加わった。それに伴い、ゴーン氏は12月に三菱自の会長に就任、今年4月に日産の社長を退任すると、再建に向けて3社の会長職に専念することとなった。

●野心的な数字

 燃費不正問題に対してはこれまで、役員によるチェック体制や開発プロセスの見直し、危機管理体制の構築といった31の再発防止策を講じ、実施してきた。特に開発部門では明確な目標設定やコミュニケーションを取りやすくするための組織改編などを進めてきた。「再発防止と社内の意識改革を経営の最優先課題と意識している」と益子社長は説明する。賠償金として、1661億円の特別損失を計上し、「すでにほぼ支払い終えた」(同社広報部)という。

 そんな中、先月発表した新中期経営計画には、20年3月期の世界販売台数を125万台にするとの目標が盛り込まれた。不正問題発覚前の台数を25%上回る野心的な数字だ。ここにきて、いよいよ、攻勢に転じるというわけだ。成長路線へと大きく舵を切ったのにはわけがある。

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