今年の米第7艦隊は事故続きだ。1月31日には巡洋艦アンティータム(約1万トン)が母港横須賀の港口付近で浅瀬に乗りあげてプロペラを損傷、油圧作動用の油約4トンが流出した。5月9日には韓国・浦項(ポハン)沖の日本海で巡洋艦レイク・シャンプレイン(同型)が韓国漁船と接触している。
そして6月17日には駆逐艦フィッツジェラルド(約8300トン)が伊豆半島・石廊崎の南東沖約20キロで日本郵船が雇っているフィリピン船籍(乗員20人も同国人)のコンテナ船ACXクリスタル(2万9千トン)と衝突、同艦は艦橋下の右舷と水線下に重大な損傷を受け、乗組員7人が死亡、艦長ブライス・ベンソン中佐ら3人が負傷した。
●船底を突き破られた
この3隻の米軍艦はいずれも「イージス」対空ミサイル・システム搭載艦だが、それは当然で米海軍の巡洋艦、駆逐艦計85隻のうちイージス艦でないのは1隻だけだ。
軍艦と貨物船が衝突して、軍艦の被害のほうが大きかったことに驚く人も多いが、軍艦は船体に多くの肋骨を入れ、薄い外板を張る障子のような構造で、軽くて波浪に強いが、側面からの衝突には脆い。商船は船価を安くするため肋骨を少なくし、厚い外板で強度を保っている。フィッツジェラルドは破片などから高価な電子装備を守るため、引っ張り強度が高いケブラー繊維を固めた装甲約70トンを使っているが、それが付いているのは艦の一部だけだ。
多くの商船は船首の水線下にずんぐりとした突起物「バルバス・バウ」を付け、船首が波を立てる際の抵抗を減らして燃費を良くしている。ACXクリスタルが衝突した際は、その船首の上部が駆逐艦の右舷艦橋近くまで破壊すると同時にバルバス・バウが船底を突き破ったから、下士官、水兵の居住区に水が流入、7人が水死したが、各区画を閉鎖して沈没は免れた。
だが、艦橋の下の水線下には、「戦闘情報センター」があり、コンピューターが集中する。1千数百億円以上するイージス艦の価格の半分近くは電子装備だから、海水に漬かっていれば大損害。艦齢も22年だけに、修理せずに廃艦になるかもしれない。