「全米では映画館が減少し、準メジャー映画に資金が回らなくなっている。映画会社から好きに撮らせてもらえなくなった監督が配信へ移行するケースがみられます。とにかく作品数が多いのでクオリティーはピンキリな部分もありますが、それでも質の高い作品がすごく多いんです。創始者リード・ヘイスティングスは『我々の敵は他の配信サイトではなく人の睡眠時間だ』と発言しています」

●カンヌも問題じゃない

 だがカンヌ映画祭は来年度から「フランスの映画館で上映されること」を出品条件に加えることを発表。事実上のNetflix締め出しだと論議を呼んでいる。フランスでは、劇場公開から36カ月はネット配信できない規定がある。また映画館の入場料収入の一部を税金として徴収し、テレビ局の徴収分とあわせて映画製作や振興策への助成に充てる仕組みがあるなど、映画興行発祥国として文化を守ってきた自負が背景にあるという。

 前出の中島さんは言う。

「フランスのルールは独特で、全世界で同時配信をする我が社として、そちらに寄ることは現実的ではないんです。ただお互い真っ向から戦ってもいいことはない」

 山崎さんも言う。

「若手映画作家のなかには賞レースに興味がない人も出てきています。世界の映画祭にタキシードを着て出かける時間があったら、新作を撮って配信で全世界の人に見てもらえばいい、と」

 Netflixが映画を乗っ取るわけではないと山崎さんは見る。「映画館で作品を共有したい人は確実に残る。あくまで予想ですが、Netflixが自前の劇場をつくって公開する可能性もあるでしょう」

 未来は変わりつつある。だが、映画の敵は映画ではないはずだ。

(ライター・中村千晶)

AERA 2017年6月19日号