●住環境としては最適

 築地の、特に場内のネズミの現状はどうなっているのだろう。『ネズミに襲われる都市─都会に居座る田舎のネズミ』(中公新書)などの著書がある「ねずみ駆除協議会」会長の矢部辰男さんは、築地市場で実態を調査したことがある。

 排水溝も穴だらけで、ノコギリで削ったマグロのカスなどエサが豊富なうえ、段ボールや発泡スチロールの箱が山積みで、営巣できる隙間や材料がそこらじゅうにある。

「ドブネズミの住環境としては皮肉なことに最適です。業者を入れて駆除はしているものの、わなは主に通路にしかかけられないなど制限が多く、効果的ではないんです」(矢部さん)

 老朽化した開放型市場の限界なのか。しかし、豊洲など新天地の密閉空間に移動すれば、ネズミに悩まされることがなくなるとは言えないのが実情だ。

 矢部さんは言う。

「最初のうちはネズミはいないでしょうが、たちまちすみ着いて同じことの繰り返しになると思います。特にドブネズミは泳ぎが得意で水がへっちゃらなので、排水溝をよほどしっかり作らないと」

 一方で矢部さんは、築地のドブネズミには有効な対策があると続ける。

「ドブネズミはクマネズミのように警戒心が強くない。わなにもかかりやすく、クスリも食べてくれます。仮に移転するとすれば、荷物をガタガタ動かすなどの移転準備を始める前に、少しでも周辺への分散を防ぐ対策を講じる必要がある。クスリを十分に使って死体さえきちんと回収すれば、効果的な駆除ができるはずです」

 東京五輪が開かれる2020年はネズミ年。それまでに、行政には抜本的なネズミ対策も講じてほしい。(編集部・大平誠)

AERA 2017年6月19日号