「企業がどんどん撤退し、昼間人口が減る一方で常住人口が増えた。沿線の開発と通勤客を都心に運ぶことで大枠が成り立っていた鉄道会社も、それでは経営が立ち行かなくなってきたからターミナルに大規模集客施設を造ったり、相互乗り入れを拡大して利便性を高めたり、細かなダイヤ編成の見直しで対応している。しかし、大阪市営地下鉄ではそうした業務集積のために鉄道がどうあるべきかという議論をすっとばして『民営化』というキーワードに振り回されてきただけにしか見えない」

■域内総生産は凋落傾向市民が維新に見た夢は

 そもそも大阪市営地下鉄とバス事業の民営化は、06年に関西経済同友会の提言をきっかけに市も検討に入り、10年には上下分離方式での民営化計画を公表した。上下分離方式とは、欧州の鉄道でトレンドになっている、インフラ部分の下モノは公で保持管理し、運行・運営を行う上部を民間会社にして会計を独立させるものだ。11年に市長になった橋下氏はそれを否定し地下鉄は一括して民営化し、バス事業は赤字路線をカットしたうえで民間に譲渡するという方針を示した。それが市の完全出資による民営化では、民営化善しあしの以前に、誰のための組織改変なのか理解が追いつかない。

 そう、大阪は確実に傷んでいる。全国の国内総生産(GDP)にあたる域内総生産の推移を見ると、明らかだ。01年度を100とした指数で全国や近畿が03年から07年まで上昇基調を続ける中、大阪市は逆に凋落傾向で推移。07年度に8ポイントだった全国との差は08年のリーマン・ショック以降さらに拡大し、下げ止まりの傾向にある。

 だからこそ大阪市民、府民は時に口汚いまでに激しい弁舌とともに「既得権益」に手を突っ込んで引っ掻き回す橋下氏の威勢の良さに夢を見、自民党を飛び出して橋下氏に合流、「都構想」を掲げた維新に舵取りを託したのだろう。実際、11年4月の統一地方選の府議会議員選挙で圧勝した維新は、同年6月には議員定数を109から21減らして88にする条例案を可決させ「身を切る改革」の実行者であることを印象づけた。しかし、一方で既存政党や自治体の首長や職員、教員、労働組合、マスメディアなど、手を替え品を替え「既得権益」を代表する「敵」をあぶり出して攻撃し、自分たち以上に痛めつけてきたのではないか。

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