日本では「親北」に加え「反日」「反米」と語られることもある文氏。朝鮮半島を長年見つめてきた慶応大学名誉教授の小此木政夫さんは「文氏を『反日』という枠組みでとらえようとすると無理が出てくる」と解説する。小此木さんによると文氏を理解するキーワードは「民族主義」。日本、米国、北朝鮮への対応を方向付けるのは、左右のイデオロギーや特定の国に対する好き嫌いではないという。

「いずれにしろ大統領になったからには、極端な『反日』勢力とは距離を置かざるを得ないだろう」(小此木さん)

 文氏は10日の就任演説で米韓同盟の強化を打ち出し、「必要ならただちにワシントンに飛んで行く。北京と東京にも行き、条件が整えば平壌にも行く」と述べた。同日夜のトランプ米大統領との電話では早期訪米に意欲を示した。盧政権が対米関係悪化で苦しんだ経緯もあり、文政権下での米韓関係に対する不安をひとまず払拭(ふっしょく)した格好だ。

 11日には安倍晋三首相と電話で協議。慰安婦問題をめぐる15年の日韓合意について、

「韓国の国民の大多数が情緒的に慰安婦合意を受け入れられていないのが現実だ」

 と語った。さらに、

「国民の情緒と現実を認めながら、双方がともに努力しよう」

 と再交渉の必要性を示唆したが、「再交渉」という言葉自体は使わず、就任早々の安倍氏との正面衝突は避けた。

「盧武鉉大統領の8周忌追悼式に大統領として行って申し上げたい。成し遂げられなかった夢、私が全部やります」

 文氏が3月に行った演説の一節だ。政策は盧氏の路線を基本的に引き継ぎ、原則主義者、民族主義者の側面を持つ文氏。核・ミサイル開発を続ける北朝鮮と対峙(たいじ)しながら、日本や米国との関係をどうつくっていくのか。輪郭が見えるのはこれからだ。

(朝日新聞国際報道部・金順姫(キムスニ))

AERA 2017年5月22日号