2007年に撮影された故盧武鉉大統領(右)と文在寅氏との2ショット。この2年後、盧氏は自宅の裏山で自殺した (c)朝日新聞社
2007年に撮影された故盧武鉉大統領(右)と文在寅氏との2ショット。この2年後、盧氏は自宅の裏山で自殺した (c)朝日新聞社

 保守から革新系への政権交代を実現し、韓国大統領に就任した文在寅氏。故盧武鉉・元大統領との関係抜きに彼を語ることはできない。

 大統領選から2日後の5月11日、ソウル中心部の大型書店には「第19代大統領 文在寅(ムンジェイン)当選」と書かれたコーナーができていた。文氏が2011年に出した自叙伝『文在寅の運命』が見当たらない。「大統領就任で売り切れました」と店員。文氏の本を物色していた声楽家の男性(35)は「盧武鉉(ノムヒョン)大統領ができなかった機会平等の実現を望む」と期待を口にした。

 自叙伝の表紙にはこうある。

「運命のようなものが、私をここに導いたようだ。盧武鉉弁護士に出会い、今に至ったことも、あたかも定められたことのように感じられる」

 文氏は慶尚南道巨済(キョンサンナムドコジェ)生まれ。両親は朝鮮戦争の際、北朝鮮から米軍船で逃れてきた避難民だった。子どもの頃は貧しく、高校までは釜山(プサン)で生活。ソウルの慶熙(キョンヒ)大学に入り、朴槿恵(パククネ)前大統領の父親、故朴正熙(パクチョンヒ)・元大統領による軍事独裁政権に反対する民主化運動に身を投じた。デモを主導し逮捕された経験もある。

 司法試験に合格した文氏は釜山に戻って盧氏の法律事務所に合流、このことがその後の「運命」を決めることになる。盧氏と文氏は、互いに「清い弁護士」であろうと意気投合し、人権派弁護士として行動を共にする。盧政権では文氏が大統領秘書室長などを務めた。07年に実現した北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記との南北首脳会談にも関わった。

 しかし、盧氏は大統領を退任後、家族が受け取った資金をめぐって事情聴取を受け、検察が結論を出す直前に自殺。文氏は遺志を継ぐかのように国会議員となり、前回の大統領選に出馬するも朴槿恵氏に惜敗した。

●原則主義と民族主義

 昨年12月に文氏は、当選したら「北韓(北朝鮮)にまず行く」と発言。保守系候補は、文氏が当選すれば「親北政権になる」と攻撃した。文氏には北朝鮮寄りとの批判がつきまとう。

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