今後は通信事業者としてのノウハウも活用。運行情報をクラウドで収集・分析して最適なサービスの提供も目指す。例えば時間帯によって電車のように数珠つなぎに走らせたり、通常のバス運行のようにしたり、タクシーと同様に目的地まで送ったり──というイメージだ。

 もちろんサービスが確立したところで“逆輸入”することも視野にある。ソフトバンクのモビリティサービス推進室の田中清生さん(42)は「低速モビリティーの市場は、まさにこれから作り上げていくもの。ゼロから1にしていく段階なので難しい部分もあるが、実際に交通手段がなくて困っている人がいます。潜在的な市場はすごく大きい」と市場の拡大を期待する。

 一方で、こんな意見もある。

「時速10キロ程度の低速でなんとかなる領域とならない領域がある。我々はもっと広範囲で動けるものをつくりたい」

 そう話すのは、過疎地を抱える石川県の金沢大学新学術創成研究機構の菅沼直樹准教授(41)だ。広域での移動手段にこと欠く地域では、より高速の移動手段も必要、というわけだ。

「超小型バスを想定」

 菅沼准教授が研究しているのは「完全自動運転」技術。プリウスを改造した実験用の車両は、経路を設定すればハンドルから手を離した状態で交差点を通過したり、車線変更したりできる。運転中に人が関与することは「かなりまれ」という。
 ただ課題もある。現状では無人走行は法律上できないうえに、技術的に事故が全く起きないという保証もない。そのため、まずは不測の事態の際にドライバーが補助するかたちで運用を開始できないかと考えている。今は能登半島に位置する珠洲市を中心に実証実験中で、自動運転技術で過疎地から遠方にある市街地に移動できるようにしたいという。菅沼准教授は言う。

「安全性を兼ね備えた自動運転技術とし、定期運行の超小型バスを想定している。それが実現できれば、公共交通機関が不足している現状を打開できる手段になると思います」

(編集部・山口亮子)

AERA 2017年3月6日号