声の大きい牛肉団体を筆頭に、オバマ政権での農務長官をトップに迎えた乳製品輸出団体、加えて日本へのコメ輸出に積極的なカリフォルニアのコメ業界などが輸出の拡大を求めることになるという。大統領選では農家の多くがトランプ氏に投票しており、農業団体の要求を無視するわけにはいかないという事情もある。

 日本ではかつて農協、農水族議員、農林水産省が強固に結びついて「鉄のトライアングル」を形成、農業交渉で政府に強い圧力をかけてきた。しかし山田さんは「鉄のトライアングルはもうなくなってしまった」と、農業関係者から二国間交渉に強い影響を与えるのは難しいとする。

「過去の多角的貿易交渉では、農業分野で日本が勝ったことはない。どの程度の負けで済むかというのが、これまで一貫して農業交渉の焦点でした」

 TPPやウルグアイ・ラウンドなど過去の交渉を取材してきた経験から、米国を向こうに回した二国間交渉で日本が主導権を握るのは難しいと断言する。

「二国間交渉になれば、互いの国力の差がダイレクトに影響するし、相手は『アメリカファースト』と言っているわけだから、相当な圧力が来る。厳しい交渉が予想されるでしょう」(山田さん)

 東京大学の本間正義教授も、こう話す。

「二国間で交渉するなら、トランプは最低でもTPPの水準で、当然それ以上の開放を要求してくるでしょう」

●要求エスカレートか

 本間教授によると、米国が最も輸出したい品目として重視するのが牛と豚。関税率はTPP以上の引き下げも予想されるが、それに加えてセーフガード(緊急関税措置)の発動の要件を厳しくするよう求められる可能性もあると指摘する。セーフガードは輸入急増による国内産業への重大な損害防止のため、関税を引き上げたり、輸入数量を制限したりする措置で、TPPの基本合意でもその発動が認められていた。

「TPPで合意に至ったセーフガードをうんと発動しにくくするように、といった要求は出てくるかもしれない」

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