慶應義塾大学准教授 鳴川肇さん(45)/オーサグラフは、authalic(面積が等しい)とgraph(図)から名づけた造語。デザインにはこだわり、グラフィックデザイナーの友人にずいぶん直しを入れてもらった(撮影/編集部・野村昌二)
慶應義塾大学准教授 鳴川肇さん(45)/オーサグラフは、authalic(面積が等しい)とgraph(図)から名づけた造語。デザインにはこだわり、グラフィックデザイナーの友人にずいぶん直しを入れてもらった(撮影/編集部・野村昌二)
オーサグラフ(写真:鳴川肇准教授提供)
オーサグラフ(写真:鳴川肇准教授提供)

 トランプ米大統領の登場で先が読めなくなってきた国際情勢。だからこそ、見えにくい事実をあぶり出す新しい地図に注目したい。AERA 2月20日号では「地図であぶり出す未来」を大特集。VR(バーチャルリアリティー)やスマホアプリで地図どんどん進化する世界や、ブラタモリなど街歩きブームの極意もルポしている。本誌から、慶應義塾大学准教授の鳴川肇さんが考案した「オーサグラフ」を紹介する。

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 陸地や海の面積が極力正しく、形の歪(ゆが)みも抑えた世界地図──。「オーサグラフ」を一言で説明するとこうなる。慶應義塾大学の鳴川肇准教授(45)らが考案した。

「もともと建築の設計で目に映る像を平面に正確に写すための透視図法を研究していました。それを応用して、地理関係がつながったまま歪みの少ない地図を作れないかと考えたのです」

 アイデアが浮かんだのは1999年、オランダで修士論文を書き上げた直後。意識したのは、450年ほど前の大航海時代に作り出されたメルカトル図法だ。船の針路を正しく測れるので航海上は便利だが、高緯度ほど面積が広がる。南極やグリーンランドが実際の面積より巨大に描かれる欠点を解決しようとした。

 球面を平面に完璧に投影することは不可能だ。そこで、地球の表面を96個の三角形に分け、面積の比率を保ったまま正四面体の表面に多角的に投影し、それを長方形に展開する方法を思いついた。はさみとセロハンテープで試行錯誤を重ね、2009年に発表。元宇宙飛行士で、日本科学未来館館長の毛利衛さんが「画期的なアイデアだ」と絶賛した。13年に高校の地理の教科書に載るようになり、昨年度の「グッドデザイン大賞」にも輝いた。

 15年から大学の研究室を持った。世界が抱える複雑で見えづらい問題を、オーサグラフの図法を使って視覚化する研究を進めたいと話す。

「国境をなくし、人種や宗教、言語などで分けた地図を作り、一枚に重ね合わせ世界の構図をわかりやすく視覚化したい」

(編集部・野村昌二)

AERA 2017年2月20日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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