小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。オーストラリア行きを決断した顛末を語った新刊『これからの家族の話をしよう~わたしの場合』(海竜社)が発売中
小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。オーストラリア行きを決断した顛末を語った新刊『これからの家族の話をしよう~わたしの場合』(海竜社)が発売中

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 私が家族と暮らしている西オーストラリアのパースは世界で最も孤立した都市とも言われ、西には広大なインド洋、南には南極大陸があるのみ。海を眺めていると、人を寄せつけない素顔の地球がすぐそこにあるのだなあと実感します。

 パースは南極観測船しらせの寄港地でもあります。毎年11月末ごろに日本からやってきて、南極の昭和基地を目指すのです。南極観測隊は、空路パースまで来て、しらせに合流。船は極地に向かう前に、新鮮な食料を積み込みます。昨年の出港前夜、乗組員の方の案内で艦内を見学することができました。

 文部科学省の取り組みである南極観測隊の輸送は海上自衛隊が行っています。しらせは最新装備の砕氷艦で、輸送ヘリや雪上車を搭載。甲板から操舵室まではビルの6階分ぐらい。しかし極地の暴風圏では、そこまで届く大波が押し寄せるのだとか。ひええ。しかも最大傾斜が20度を超える揺れが1週間も続く……地獄ですね。昔の旧型しらせは最大傾斜が50度を超え(!)、しかしそんな中でもお湯と戦いながら風呂に入っていたという乗組員たちのたくましさにも驚きです。

 暴風圏を抜けるといよいよ氷海。氷が厚い時には、後退しては加速して乗り上げ、船の自重で割るというラミング航行を何千回も繰り返すそうです。実に厳しい旅路です。しかしそんな艦内にも墨書きで「ワークライフバランス」と掲げられていたのが、大変印象的でした。

 観測隊はオーロラ研究者や基地の維持のための土木技術者などから成るそうですが、国立極地研究所のサイトを見ると、いろんな専門家が参加していることがわかります。話を伺うと、基地での1年間は日々研究で大忙しとのこと(ちなみに今は基地に犬はいません)。南極は、各国が英知を集めてしのぎを削るアツい現場でもあるのですね。貴重な、大人の社会見学でした。

AERA 2017年1月30日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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