●国内には自粛ムードも

 ホワイトハウスでの大統領記者会見では、あらかじめ質問する報道機関と記者が決められているが、一方的な罵りはあり得ない。しかし、トランプが今後、自分に都合の良い報道をしているメディアだけに質問させる可能性も高まり、先の記者会見は、メディアvs.トランプ政権の予感を一挙に強めた。

 トランプの民間人や民間企業へのツイート“口撃”も過激さを増す一方だ。すでに、トヨタ自動車や米ゼネラル・モーターズ(GM)が、メキシコでの新工場や生産について非難され、株価を下落させた。

 ゴールデングローブ賞の授賞式で、大女優メリル・ストリープは訴えた。

「ある行為に唖然としました。この国で最も尊敬される席に座りたがっている人が、障害を持つ記者の物まねをしたときです。その光景に私の胸は打ち砕かれ、いまだに頭から離れません。なぜなら、映画の世界ではなく現実で起きてしまったことだからです。軽蔑は軽蔑を呼び、暴力は暴力を生みます」

 だが、トランプは「ハリウッドで最も過大評価された女優の一人」とツイートで噛みついた。

 国家権力のトップにつこうという人物によるメディア、民間企業、民間人に対する見境のない口撃は、「言いたいことを控える」萎縮と自粛のムードを生み出している。米国永住権を申請している移民やその家族、ビザ滞在の外国人の中には、すでにSNSでの発言を削除する人も増えた。

「自由」を標榜していた米国は、新大統領のために、変貌の一途をたどっている。(文中敬称略)

(ジャーナリスト・津山恵子/ニューヨーク)

AERA 2017年1月23日号