小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。オーストラリア行きを決断した顛末を語った新刊『これからの家族の話をしよう~わたしの場合』(海竜社)が発売中
小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。オーストラリア行きを決断した顛末を語った新刊『これからの家族の話をしよう~わたしの場合』(海竜社)が発売中

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 十分な議論を経ずに成立したカジノ解禁法。経済効果がうたわれる一方で、ギャンブル依存症に対する視点が欠けていると批判されています。

 先日、こんなことがありました。ある情報番組でカジノ法案について取り上げた際、画面の下に、「依存症怖いよね。だから生活保護受給者のパチンコは禁止」という視聴者のツイートが流れました。

 スタッフは、ギャンブル依存症対策が不十分な日本の現状を指摘した意見だと思って表示したのでしょう。あなたは、この意見の本音はなんだと思いますか?

 依存症になる可能性は誰にでもあります。リスクの高い人に対しては適切な対策がとられるべきですが、なぜこのツイートの主はそれを「生活保護を受給している人たち」に限ったのでしょうか。このツイートは、正論を言う体をとって生活保護受給者たちを差別し、バッシングすることが目的です。私は、そうと気づかなかった番組のスタッフには大きな問題があると感じ、生放送でそのように指摘しました。

 あるテレビのドキュメンタリー番組でパチンコ依存症の人々を取材したことがあります。貧困や暴力、孤独や幼少時のトラウマなど、さまざまな生きづらさを抱えた人がいました。台の前に座っている時だけはつらいことを思い出さずに済む、大当たりした時に人生で初めて自分が承認された気がしたなど、パチンコ依存経験者の自助グループではさまざまな思いが語られていました。

 やめたいけどやめられない自分を責めてつらくなり、また何かに依存してしまう……私にも同じ経験があります。過食嘔吐という摂食障害で10代半ばから15年間苦しみました。食べている間だけは、大嫌いな自分のことを考えずに済んだのです。

 太ったら更に自己嫌悪が強まるので、吐く。片付けながら自分を恥じ、死ねばいいと呪いました。

 その気持ちから逃れるためにまた、食べるのです。本人も周囲も病気だとは気づかず、支援はありませんでした。もっと早く、専門家に出会っていたらと思います。

 ギャンブル、アルコール、薬物、過食、ダイエット、セックス、買い物……依存症は他人事ではありません。誰でもなる可能性があり、適切な対応と支援が必要なのです。もっと正しく知ってほしい。一人の生還者として、強くそう思います。(小島慶子)

AERA 2016年12月26日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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