たしかに、採択された大学や研究者の中には、公の場で語りたがらない人も少なくない。同委委員長を務める法政大学の杉田敦教授はこう打ち明ける。

「採択された複数の大学に、委員会に来てほしいと依頼しましたが、すべて断られましたよ」

●語りたがらない研究者

 どちらかといえば、反対派の研究者の声が大きく、中立や賛成の研究者は沈黙し、互いの歩み寄りがない。防衛予算から大学などへの委託研究が増えると見られている中で、研究成果の帰属をどうするかなどオープンな対話が必要ではないか。

 これまでも防衛予算のうち科学技術関連予算は1千億~1500億円、毎年計上されてきた。防衛装備庁は来年度から、導入済みの委託研究制度に加えて、1件あたり5年間で最大10億~20億円の大型研究プロジェクトを新たにスタートさせる。大学などを対象とした予算規模は、他省庁と比べても最大級。「エンジンの耐熱材料開発」などの研究テーマを想定している。

 背景には、日本周辺の安全保障環境の変化に、技術の進歩が追いつかず、日本単独での防衛装備品の技術開発が困難になっている現状がある。防衛産業の市場規模は約1.8兆円。航空機産業や造船、家電などとほぼ同程度の市場規模だ。国内防衛産業の受注実績で見れば、年間1.3兆円に落ち込む。これは国内の靴・履物小売市場(約1.4兆円)に等しく、勢いはない。国内防衛産業は、防衛省の発注でほとんどが支えられているが、ここ数年、急速に輸入比率が高まっている。

「新しい科学技術の開発が頭打ちで、研究開発に勢いをつけたいというニーズが政府内に高まっています。我々がその一翼を担うという意気込みです」(前出の外園氏)

 政府は成長戦略の一つとして、防衛装備品輸出をもくろみ、条件つきで武器輸出を解禁した。実際は国内産業に技術力がなく高コスト構造で、国際競争力がないのが実態だ。拓殖大学の佐藤丙午教授はこう話す。

「最初の構想が重要ですが、研究者や技術者同士が一緒に議論をする必要があります。今の防衛装備庁はそれが十分ではなく、将来的に大学研究者が関わってほしいのでしょう」

 最近はドローンや情報技術など民生優位なものも少なくない。なにより防衛と民生の技術の境界があいまいだ。防衛技術の開発プロセスをオープンにしないと、民生技術とともにじり貧になってしまう。(編集部・長倉克枝)

AERA 2016年12月12日号