尖閣周辺は、サバやカワハギの好漁場という。中国漁船が魚群を追って集結、あわてて中国公船が追いかけたとの分析が出ている。かつて中国人が常食したのは川魚だが、流通網の発達もあって海でとれた魚も取引が増え、沿岸地域だけでなく内陸部の店頭でも並ぶようになった。海産物の爆食(ばくしょく)の圧力で、日中国境にさざ波が立っている。

 中国政府が何らかの意図を持って中国漁船をけしかけたとの疑念も生んでいるが、真相ははっきりしない。いずれにせよ、尖閣海域はいま、日本で最も緊張度の高い海と化している。

●緩衝材の海保と海警

 領海侵入のたびに日本政府は中国政府に抗議するが、

「領有権の問題が存在することを認めろの一点張りで話にならない」

 外務省関係者はそう漏らす。

「ただ、ホットな海域だからこそ、自衛隊は絶対に出せない。ミリミリ(軍と軍)では一触即発の危険があり、あくまでも海保に頑張ってもらうしかない」

 そこで海保は今年3月、尖閣対応に特化した約600人からなる尖閣警備専従班を発足させた。石垣島(沖縄県)に専用桟橋や宿舎を新設、拠点とした。同島は尖閣まで約170キロで、沖縄本島(約410キロ)や中国大陸(約330キロ)から出港する船より早く海域に到着する。

 専従班が使うのは新造した巡視船10隻。外洋でも長期的な継続航行ができ、海が荒れても耐えられる1千トン級の大型船をそろえた。20ミリ機関砲や放水銃を搭載し、ヘリコプターのための飛行甲板もある。

 秘策も取り入れた。クルーの休みにかかわらず、船の常時稼働をめざした運用の工夫だ。

 船の操作は、常に同じクルー(乗組員のチーム)が行う固定制が常識のため、クルーが休暇をとると船は1隻動かなくなる。専従班では、船が常に出動できるよう、3隻に対し4クルーを配置する「複数クルー制」を海保史上初めて導入した。どのクルーでも3隻全てを操れるため、1クルーが休みでも他のクルーが船を出す。この3隻4クルー制を2グループつくり、計6隻を8クルーで動かすことで、本来は休みとなるプラス2隻分の稼働率を引き出した。

●中国の活発な海洋進出

 この大型巡視船10隻とともに、沖縄本島を拠点とするヘリコプター搭載巡視船(指令機能)2隻も加わって専従班を構成。24時間体制で尖閣警備に当たっている。前出の海保幹部は言う。

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