子どものころから犬を飼い、福祉にも関心はあったが、盲導犬や視覚障がい者に関する知識はほぼゼロ。3年で「盲導犬訓練士」の資格を取り、日本盲導犬協会で働きながら経験を積み、盲導犬利用希望者に歩き方を指導する「盲導犬歩行指導員」の資格を得た。

 盲導犬候補の子犬は、生後2カ月から1歳まではボランティアの家庭で育ち、その後約1年間、センターで訓練を受ける。そして、パートナーとなる人との共同訓練を経て、晴れて盲導犬になる。合格率は3~4割と厳しい。

 一方、利用を希望する障がい者の多くは60代以上。共同訓練を円滑に行うには、犬と人、双方に対する高度なコミュニケーション能力が求められる。田中は約30人の部下とともに、常時いる40頭の候補犬から1頭でも多く、盲導犬として送り出せるよう努めている。

「人間のために働かされてかわいそう」。そんな批判の声を時に聞くこともある。

「静岡の施設に勤めていたときは、子犬の繁殖から引退犬の看取りまでしていました。僕たちが“生ませた命”に対して責任の重さを感じ、犬の福祉と権利に配慮しています」

 人と犬、互いの幸せを願ってやまない。

(文中敬称略)

※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです

(ライター・安楽由紀子)

AERA 2016年8月15日号