●市場原理は働かず

 ドラッグストアなどで売られている市販薬は、メーカー希望価格を参考に、店が売れ行きなどをみながら売値を決めている。いわば、市場原理が働いている。しかし、処方薬のほとんどに、市場原理は反映されない。健康保険の対象になる医療用医薬品は厚生労働省が価格を決めるからだ。かつての社会主義国のように役所が判断する公定価格で、薬価と呼ばれる。

 薬価は、中医協が決め、厚労相に報告されて告示される。中医協の総会は健保組合など支払い側代表、医師会など診療側代表、学者など公益側代表で構成されるが、実際に薬価を決めるのは、その下にある「薬価算定組織」だ。薬の評価にはとりわけ専門性が必要とされることから、医学と薬学の専門家がメンバーになるが、

「利害がからむ議論をするのでメンバーの名は非公開。企業秘密が含まれるので議事録は作っていない」(厚労省保険局)

 ここで製薬会社は意見を述べたり、不服の申し立てをしたりできるが、それも議事録には残されない。誰がどんな論拠で薬価を決めたか、外部からうかがい知れない仕組みだ。

 全国保険医団体連合会(保団連)は9月6日、塩崎恭久厚労相に「『高額薬剤』への対応と薬価制度改善を求める要望書」を出した。第1項に記されたのが「担当部局の裁量的判断を排し、算定経過を公開すること」。薬価を透明にしろ、という要求である。

●主導権は薬系技官官僚

「算定組織に原案を出すのは保険局の薬系技官。薬価の主導権は官僚が握っています」

 事情を知る人はそう指摘する。薬価の決定権こそ厚労官僚の権力だ。算定組織に、役所とつながりが深い医師・学者が加わっていることは想像に難くない。薬系技官の再就職先は業界団体や大学が少なくない。製薬会社は大学や医局に営業し、研究費の支援などをしている。

 役人・専門家・業界のもたれ合いは、薬価を膨らましがちだ。決めるモノサシは三つある。(1)類似したクスリがあればその値段を基準に新薬の優れた点を価格に上乗せする(類似薬効比較)。(2)外国で既に販売されていたらその値段を基準にする(外国との比較)。新薬の多くは外資メーカーの開発なので、欧米で先に売られることが多いからだ。(3)類似品も外国にもない新薬は、コストを積み上げ、適正利潤を上乗せする「原価計算方式」を採る。

 オプジーボは、前例のない薬ということで、(3)の原価計算で価格が決まった。研究開発、製造設備、原料、販促宣伝、流通費用を積み上げ、その上に「画期的な新薬」に認められる特別加算(6割)もつき、営業利益27%が乗せられた。その結果、注射液100ミリグラムで72万9849円に。体重1キロ当たり2ミリが必要とされることから、体重50キロの人に1回投与すると約73万円が費やされることになる。

「積み上げ方式といっても役人の腹次第。コストや利益を判断材料に裁量が働く」

 と関係者は打ち明ける。

●「英国の5倍」は妥当か

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