●“一括”と“通年”が共存?

 通年採用が今後、一括採用に取って代わるのかは、未知数だ。

「通年採用しても就活期間の中盤以降、基準にかなう学生はほとんど来ない。それで過去に何社も失敗しています」

 コンサルタントで立命館大学客員教授の海老原嗣生さんは、こう指摘する。優秀な学生の多くは従来の就活期間中の早い時期に他社の採用内定を取ってしまい、結局企業側が求める人材が採れないのでは、とみる。

「1990年代にも通年採用導入の流れがあったが、定着しませんでした」(海老原さん)

 マイナビのHRリサーチ部長の栗田卓也さんは「特殊環境下で生まれたもの」と分析する。

「雇用環境が改善し売り手市場の今は、採用活動にコストを投じてでも企業は良い人材を採りたいと思いますから」(栗田さん)

 一方で通年採用への全面的な転換を望む声も。

「多様な人材が採れるし、年次の概念を崩してしまったほうが企業は将来性が出てくるはず。今の社内秩序を変えて通年採用に踏み切るという会社がいわゆる大手の『オールドカンパニー』の中からそろそろ出てきてもいい時期だと思いますね」

 経済評論家で楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元さんは、こう期待を込める。

 全国私立大学就職指導研究会会長の大谷茂さんは“併存派”だ。通年採用が通常の欧米では、新卒者と職務経験者が直接競争することになり、若者の失業率が高くなっているという。

「新卒一括採用には、若者が正社員になるチャンスを増やす側面もある。今後は一括と通年の両方が共存し、多様な学生に就職の機会が柔軟に与えられるようになるのでは」(大谷さん)

(編集部・山口亮子)

AERA 2016年10月31日号