「価格も決して安いものではありませんが、当時を知るオールドファンはもちろん、野球の歴史に興味を持つ広い世代のファンの方々にも歓迎していただける商品になったと思います」(同)

 テレビのゴールデンタイムの定番だった試合中継が減り、露出度が下がった感もあるプロ野球だが、実は球場の観客動員数は好調だ。日本野球機構によると、セ・リーグのレギュラーシーズンの観客動員数は今季、1384万8988人で、92年の1384万1千人を超えて過去最多。パ・リーグも1113万2526人と、2年連続で最多を更新した。娯楽が多様化する中、何が観客を引き寄せるのか。

●人気低下への危機感も

 背景にファンサービスの充実を挙げるのは、「明治神宮野球場90周年」の記念ロゴもデザインしたグラフィックデザイナーの大岩Larry正志さん(41)だ。

「転機は2004年の日本プロ野球選手会のストライキだと思います。球団売却や米大リーグへの選手流出と相まって、プロ野球人気にかげりが出たのに危機感を抱いた各球団が、新たなファンサービスを懸命に模索してきました」

 04年9月に決行された日本プロ野球史上初のストライキは、オリックス・ブルーウェーブと大阪近鉄バファローズの合併に伴う新球団参入問題をめぐり、「来季からの新規参入を認め、セ・パ両リーグとも6球団を維持」と主張する選手会と、それに難色を示す日本プロ野球組織との交渉が決裂したことによる。このとき、経営難が続くパ・リーグ球団の声などを受け、一部の有力球団のオーナーが球団数を削減し、1リーグ制にする検討をしていたこともわかり、ファンの猛烈な反発を受けた。

 選手会長だったヤクルトの古田敦也捕手(当時)が球団オーナーたちとの話し合いを求めたのに対し、読売ジャイアンツの渡邉恒雄オーナー(同)が「無礼なことを言うな。分をわきまえなきゃいかんよ。たかが選手が」と発言し、選手会とファンの怒りの火に油を注いだ。

●野球文化広める象徴

 そうした混乱の結果、翌05年の観客動員数は、セ・リーグが前年比約15%減の1167万2571人、パ・リーグが同約23%減の825万2042人と大幅に落ち込んだ。これが一つの契機になり、各球団は地道なファンサービスに力を注いできた。

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