アエラネットなどを通じて実施したアンケートでも、都市に住み続けるメリットとして「交通の便がいい」「住み慣れている」という回答が目立った。

 最期まで施設ではなく住み慣れたところで、という「エイジング・イン・プレイス」は社会の流れだ。プロジェクトの共同代表を務める東京家政大の松岡洋子准教授は、

「東京にはもう施設はつくれないし、みんなが住まいで老いたいというのですから、地域での居住を支える医療や看護、介護の切れ目ないサービスが欠かせません」

 と公的サービスの不足を指摘する。それが行き届いてもなお、必須とされる「インフォーマルなケア」にも、注目しているという。

「社会的な交流や生活支援など、従来は家族や隣人が行っていた『お世話』のところをどう再構築していくか。戸山ハイツみたいに、瀬戸際のところでなんとか立ち上がろうとしている『住民力』が鍵になるでしょう」

●それぞれの希望に応じて「見守り」の形を変える

 8月上旬に開かれた、戸山ハイツの「井戸端カフェ」を取材した。

 夕方4時、「暮らしの保健室」に三々五々、住人たちが集まってくる。参加者は約20人。70代、80代の顔もあった。「住民の共助」の議題では、

「たとえ自分が孤独死しても、それは覚悟の上だという人もいる。そういう人まで引っ張り出せるのか?」

 といった本音のトークも。話は、「次のアクション」にも及んだ。

「憩いの場をつくった団地の見学ツアーをして、みんなで学ぶところから始めたい」

「私も『食育』で地域貢献したい」

 地域の保健師は、この光景を感慨深そうに眺めていた。

「独居の方の訪問で『家具の寸法を測るのを手伝って』『ゴミ出しができなくて』と頼まれるたびに、『こんなちょっとしたことも頼む人がいないのかしら』と心配してきました。ここでは、今後何が必要なのかをみなさんで考えていますよね。孤立死、孤立死と言われ続ける経緯を見てきましたから、大きな一歩だなと」

 先の戸山ハイツ全戸アンケートでは、「倒れた時に誰が見つけてくれるのか不安に思う」と答えた人が55.2%いた。実際、調査で各戸を訪ね歩いた学生たちは、ドアの隙間からゴミ屋敷一歩手前の室内を目にすることがあった。なかには家の中でさえも移動がままならない状態で独居を続ける高齢者の姿もあった。

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