いわゆる「孤立死」は、戸山ハイツだけの問題ではなく、全国で多数発生している。08年度、独立行政法人都市再生機構が運営管理する賃貸住宅約75万戸において、「単身」かつ「65歳以上」の居住者が誰にもみとられることなく息を引き取り、死亡から相当期間(1週間以上)を経て発見されたケースは89件だったが、その後増加傾向にあり、5年後の13年度には129件となっている。

 こうした時代背景を受け、東京都が始めたのが、「高齢者見守り相談窓口設置事業(旧シルバー交番設置事業)」だ。高齢者宅への戸別訪問も含む「アウトリーチ型」で、自治体が関与しつつ住民パワーを最大限に活用する「住民参加型」なのが特徴だ。

 まずは、郵便物がたまっていないかなどをチェックする「さりげない見守り」。定期的な安否確認や声かけが必要な人には、「担当による見守り」を。住民から募る「見守り員」の中から担当者を決めて、各戸を訪問する。そのコーディネート役として、社会福祉士や介護支援専門員の資格を有する相談員がつく。訪問頻度や介在の仕方は、行政からの委託で行われる全戸調査で聞き取る個々の希望にもとづいて決めていく。

●独居の男性が火災で死亡 顔見知りなら防げた

 東京都全体では、18区市町、71地区でこの事業を実施(16年7月)。「4人に1人が高齢者」だという町田市では、
の町内会で高齢者の「見守り支援ネットワーク」が誕生した。

 同市鞍掛台地区でもネットワークを準備中。急な坂が多く道も細いこの地区は、「いざという時、消防車両も上がってこられない」と住民の危機意識が強く、防災活動が盛んだ。にもかかわらず、防げなかった火事があった。3年前、独居の男性宅から火が出て、その男性は亡くなった。生活苦で電気もガスも止められていた。何らかの方法で火を使っていたようだ。

 誰かが顔見知りになって関係機関につないでいたら、未然に防げたのではないか。住民の中にそんな反省が生まれた。九里(くのり)アヤ子さん(86)は言う。

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