「私はここに住んで50年ですが、ご近所づきあいがなく、いるかいないかもわからない方がいます。そういう方を誰がどう見守るのかが、課題でした」

 37人の住民が見守り員として名乗りを上げた。名づけて「見守り支援隊」。最高齢の九里さんもその一人だ。

 町田市いきいき生活部高齢者福祉課の有田和子さんは、見守り支援ネットワークづくりの次のターゲットは「オートロックマンション」だという。自由には立ち入れないこのタイプのマンションで、さりげない見守りをどうするか。市内の1棟でニーズを把握する調査を終えた段階だという。

 高齢者住宅財団理事長の高橋紘士さんは、こう指摘する。

「都市部ではいち早く多死時代に突入し、多少不自由なことがあっても住みなれた家や地域で生活を続けられるようにしていくことが必要な段階に入った。今後、最大の障壁はマンション。つまり、人と人の関わりを絶つ『鉄の扉』ですね。僕らはプライバシーを重んじ、鉄の扉を閉めて地域から隔絶される生活を好んで選択してきた。さて、ここからどうしようか。僕らは今、『扉』をこじ開けるかどうかの分岐点にいるのだと思います」

 まずは、都市ならではの「つながりやすさ」「スピード感」を存分に生かせるところから、地域づくりを進めるべきだ。

●74歳独り暮らし女性宅に子どもたちが押し寄せた

 ひとつの理想の形を、世田谷区でみつけた。

 温井克子さん(74)は、自宅を「ぬくぬくハウス」として開放、毎週金曜日はコミュニティーカフェにしている。古井戸とデッキのある一軒家。多摩川沿いの豊かな緑の中に立つ。7月末、イベント「井戸で流しそうめん」が開かれると聞いて、ここを訪ねた。

 2メートルの竹を3本組んだそうめん台にはあっという間に行列ができ、「子どもの人数を60人まで数えて、もう数えるのをあきらめたわ(笑)」(運営メンバーの一人)

 というほどのにぎわい。

 かねて「自宅を地域に開きたい」との思いを持っていたという温井さんが、二子玉川の「まちづくり研究会」で伊中悦子さん(66)ら数人と意気投合。「家を開放? いいね!」と話が膨らんだ。地域コミュニティーの活性化を目指し、空き家や空き部屋と活動団体とのマッチングを行っていた世田谷区の一般財団法人が行う「地域共生のいえづくり」事業に応募し、あれよあれよという間に具現化し、いまに至っている。

 思わぬ展開もあった。

 同様に「地域共生のいえ」として自宅を開いている70代の女性が病気で倒れ、療養の間、温井さんがその地区の子どもイベントを支援することになったのだ。見ず知らずの女性だったが、同法人からのオファーで事情を知った。温井さんはその女性の病室に面会に行き、

「あなたが元気になるまでの間は、こっちで任せてね」

 と伝えたという。

 温井さんは言う。

「これもある意味、地域の助け合いね。私だっていまは独り暮らしで、いつ倒れるかもしれないんだし。まわりにオープンにするって、もちろんリスクもあるけれど、やっぱりいいことだと感じることは多いです」

(ライター・古川雅子)

AERA 2016年8月29日号