そう説明するのは、教育現場のICT活用に詳しい東北大学大学院の堀田龍也教授(メディア教育)。なのに、紙をやめられない理由をこう続ける。

「学校からのプリントをメールに切り替えられないのは、個人情報保護法によって学校が個人のメールアドレスを集めることが難しいからです。防災用などの緊急メールの登録も、学校以外の組織が担っていることが一般的です」

 ただ、出欠・成績管理などの校務のICT化は、国や自治体によって進められている。ICTの活用によって教師と生徒が向き合う時間を取り戻した例もある。

●学年・学校便りを統合

 札幌駅から北西に約7キロ。札幌市立発寒(はっさむ)西小学校の職員室にはスケジュール管理の黒板がない。職員室に入るとすぐにパブリックスペースがあり、その先への児童や保護者の立ち入りは制限されている。昨年4月に着任した新保元康校長(57)が取り組んだのが、職員室のレイアウト改革だった。

「黒板によるスケジュール管理では3日分しか把握できない状況でした。ICTの校務支援システムを導入して、サーバー上で1週間先まで見通せるようにしました。行事の予定確認や変更等の情報も共有できます」

 職員室を仕切ったのは、個人情報保護のため。入室者があるたびに教師がパソコン画面を閉じる手間や、作業を中断する時間がばかにならなかったからだ。

 サーバーで情報共有することにより、朝の打ち合わせもなくすことができた。

「教師は15分早く教室へ向かうことができ、子どもたちと触れ合う時間が増えました」

 日程管理に使われていた職員室の黒板は、今は「重要情報共有黒板」と名づけられている。連絡なしで欠席した児童の氏名などが記載され、全教師が素早く重要な情報を共有する。

「ICTというと、とかく技術面に目が向きがちですが、導入はきっかけにすぎません。従来の業務フローを見直し、不要な業務を思い切ってなくすなどの決断がセットになって、初めてシステムの意味が出てきます」

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