「護持会費の支払いなど檀家の義務を果たしていればトラブルに発展することはまれ。無縁墓になって放置されたら困るのは寺なので、萎縮したり感情的になったりせず、ビジネスライクに話を進めましょう」

 そのうえで、長年世話になった感謝の気持ちとして数万円の離檀料を包むのもスマートな解決策の一つだという。

 寺との話がまとまっても、その後で思わぬ苦労をする人も少なくないようだ。神奈川県に住む自営業のBさん(男性、58)は、車で2時間かかる実家の墓を、近くに移すことを決めた。移転先の寺の格が低いと住職が応じないという噂を聞いたので、本山の寺に墓地を求め、指定された15万円の離檀料で離檀することになった。

 ところが、実家の墓にはなんと11人もの先祖が「土葬」されており、新しい墓は火葬された骨しか埋葬できない規則になっていた。火葬場に頼むと、土や砂を事前に落としておくよう指示された。洗骨業者に問い合わせると、時間も費用も相当かかるというので、Bさんはブラシを使って自分で土を落として焼骨し、ようやく新しい墓に納められたという。

「人数が多く手続きも煩雑。4回も帰郷する羽目になりました」

 自分で改葬するには、寺との交渉に加え、役場で書類を取り、石材店などに墓石の撤去や廃棄、整地までを依頼する必要がある。全国優良石材店の会によると、一般的な広さの墓地の撤去費用は都市部で50万~60万、地方で20万~30万、墓石の処分には5万~10万円程度が相場という。

●無縁墓にしない責任感

 こうした費用と手間を節約できる墓じまい代行サービスはすでに人気を博しており、墓石のネット通販を手がけるまごころ価格ドットコムでは、行政手続きと墓地の撤去・整地、洗骨、遺骨の配送までを36万8千円(税別)で代行する「墓じまいまごころパック」を販売している。

 寺との交渉はしないが、自宅に遺骨の一部を置いて供養するためのコンパクトな納骨家具が含まれ、「いつでも手を合わせることができる」と好評だという。不要になった墓石の一部をメモリアルプレートにしてくれるオプションもある。

「合葬してしまうと親御さんだけのお墓はなくなってしまうので、遺骨や墓石の一部を自宅に置いておくのはおすすめです」(石井靖社長)

 自分の代で墓を閉じることに罪悪感を覚える人も多い。石井社長は、そんな人たちにこうアドバイスする。

「墓じまいは決して先祖の軽視ではなく、無縁墓にしないという責任感の表れ。親や先祖に対しても胸を張れることだと自信を持ってほしい」

(ライター・森田悦子)

AERA 2016年8月15日号