フォスター:私が決めるだなんて、とんでもない! 作品が完成したとき、自分のビジョン通りのものができあがりましたか?

黒木:ほとんど思い通りでした。反省点はたくさんありますが。

フォスター:「やり直したい」ってところは出てきますよね。監督業は私にとってセカンドキャリア。自分なりのアイデンティティーさえ持っていれば、監督として世界一有名になろうというような「ゴール」は必要ありません。自分の力を他人に証明する必要もなく、純粋に好きな映画を作れる。そういう機会を与えられていることに、感謝しています。

●完璧ではいられない

 女優、監督、そして母としての顔も持つ同世代の2人。何もかも完璧に、とはいかなかったと言うが、見据える将来はどこまでも明るい。

フォスター:母としての人生、キャリアを持つ女性としての人生、両方100%とはいきません。思い通りにいかないことは誰しもありますよね。完璧主義者ではいられないんだってことを、受け入れなければいけないと思うんです。自分を許すことも覚えなければ。

 子どもが小さかった頃は作りたかった映画を形にできず、2本目の監督作品から3本目に取りかかるまでに12年の空白がありました。監督として作品に取り組んでいるときはうまく気持ちを切り替えられないし、子どもに時間を割けなくなると分かっていたので仕方がなかった。でも子どもたちも成長し、18歳と15歳。喜んで私を仕事に送り出してくれる。いまは、フルタイムで映画監督ができますよ。

黒木:私の原動力は、映画やエンターテインメントの世界が好きだという気持ち。お客さまには喜んでいただきたいし、夢や勇気を与えたい。監督に挑戦したのも、根底にそういう思いがあったからです。

フォスター:そうですよね、私にとっても、映画は特別な存在。映画ほど自分を変えてくれたものはないし、これほど心の琴線に触れるものはありません。

黒木:映画の世界に入ったのは25歳のとき。当時から、海の向こうにジョディ・フォスターという女優がいることに刺激を受けてきました。50代になり、視野も役の幅もさらに広がると思っています。ジョディさんに驚いていただけるような仕事をしていけたら。

フォスター:60代、70代になったとき、役者としてどんなことができるか。おっしゃる通り、役の幅はこれからもっと広がりますよね。楽しみです。

(構成 ライター・柳澤明郁)